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イビチャ・オシム監督の町サラエボ
オシムと神の子
イビチャ・オシム監督

幸せだった日々

今日オシム監督の解任というか、岡田武史監督の正式な就任が決まった。
残念な気持ちと岡田監督に対する期待で複雑。

倒れた時「日本は中田英寿を失い、オシムまで失うのか」と暗い気持ちになった。
二人ともタイプは違えど似たものがあると感じていた。

オシム監督は望まないかもしれない。
でも、サラエボに返してあげないと戦火を逃れて生きている人達に申し訳ない。
待っている人の所に帰るべきで、それは日本ではないと思う。

死ぬ気で物事に取り組むとはどういう事なのか。

彼の人生の一部分だけでも見れて本当に幸せだった。
それを糧にまた明日から頑張ろうと思う。

サウジアラビア戦後 オシム監督会見

――前回からチームよい方向に向かっているそうだが、今日の結果で確信に向かっているのか?

 インド戦よりも出来がよくなかったと思っている。悪くなっているということだ。もちろん相手が違う。サウジアラビアはインドよりも強いし、ピッチの状況も全く違う。インドではミスが出ても、ピッチコンディションのせいにすることができた。今後、もっとよいチームを作るためには、今日の試合で何がよくなかったか、話し合う必要ある。

 最初、立ち上がりはイライラする展開だった。普通なら失わないようなボールを相手に渡してしまった。その後に、普通というか、よい時間帯もあった。しかしその時間帯でも、もっとアイデアを発揮してよかった。例えば、これは中村憲剛への批判ではないが、彼以外の選手がもっとアイデアを出してほしかった。そして全体のコンビネーションを考えてほしかった。その次の時間帯は、日本のチームに典型的なのだが、自分のミスで自分をピンチに追い込んでしまった。ここは修正しないといけない。簡単に相手に主導権を渡してしまい、PKをプレゼントし、1点まで与えてしまった。後半、立ち上がりはまあまあだったが、時間の経過とともに問題が出た。それは何かというと、フィジカルの問題だ。これは昨日の会見でもお話したとおり、リーグの終盤戦であること(が原因だ)。ジャンプするどころか、ボールの方から逃げられてしまう。だから、相手もっと強かったら、その時間帯に失点してしまうこともある。そこは気をつけなければならない時間帯だった。

 もちろんサウジが弱いといっているわけではない。だが、彼らはボール回しに熱中しているようだった。つまりサウジの選手同士のパス回しが主要な関心事であり、ゴールは二の次のようにも見えた。しかし結果として、われわれの努力もあり、サウジにはチャンスらしいチャンス与えなかった。これは評価してもよい。こういう話はしたくないのだが、そういった状況では一般的にはオール・オア・ナッシングでやってくるものだ。2トップの両方を足の速い選手を使ってカウンターを狙う。そういう戦術が一般的だ。そういうふうにはならなかったが、あとはどの点を修正するか、皆さんにではなく選手に直接伝えたいと思う。

 そうそう、よい点についていうの忘れてた、一番よかったのは、次の試合のPKキッカーが誰でないか、ということ(笑)。それは大きな収穫だったと思う。

――後半、フィジカルの問題があったと言ったが、サウジが選手交代したことで左サイドにスペースを作られて混乱していたようだが、それに対して選手はうまく対応していたか?

 それは大きい問題ではない。走れるかどうか、走れない選手がいるところでどうするか、ということ。よく誤解される方がいるようだが――。対戦チームが、あるサイドからプレスをかけてくる。実際には、われわれがピンチになるのは反対側のサイドなのだ。ことわざというほどではないが、危険に見えるところほど、そんなに危険ではない。

 例えば日本の左サイド、アレックス(三都主)や憲剛が疲れ始める。そこで一番問題なのは、逆サイドの加地が攻められたら大変だということ。あるいは逆に加地が先に疲れたら、反対のことが言える。連鎖反応が一番怖い。まず、ある選手がミスして、それをカバーするためにほかの選手が余計に走る。そこでまたミスをしたら、第3の選手がもっと余計に走る。そこで疲労して、その選手が間違えてしまえば、第4の選手が追いつく前に失点してしまう。だから、明らかに「これはミスだ」というのは気がつくから簡単なのだが、そういうふうに見えない。相手選手との距離が不正確で、はっきり目に見えないミスというものが、最も(相手に)押し込まれる原因になる。サウジはスキルの高い選手がそろっていたから、それを利用して攻めてきた。相手の交代選手を見ても、サウジがそれを理解して、日本の弱点を突いてきているのが分かった。それは選手が疲れたから代えたのではなくて、日本を研究した結果、あの交代になったと思う。日本のパフォーマンスが落ちたから、そこを突かれそうになった。

 そういう見えない、分かりにくいことについて、もっと分析的な記事を皆さんが書いてくだされば、もっとサッカーの理解は深まると思う。

――サウジの攻撃では、24番(スリマニ)がパス回しの中心になっていたが、彼をもっとマークすべきだったのではないか?

 そういうふうにしようとしたが、向こうの方が上回っていた。つまり、相手チームのベストプレーヤーをマークする。それによって試合を作る、あるいは壊すというのは、はっきり説明はしやすい。例えばバルセロナと戦うとき、極端な例だが、有名なロナウジーニョとかメッシとか、そういう選手にマーカーをつけたとする。その場合、マークするこちら側が怖がっているわけだ、必要以上に。マークする役割の選手は、向こうのよさを消すというところでしかプレーしていない。例えば、こういうふうに考えられないだろうか。それまでロナウジーニョをマークしていた選手が、マークをほっぽり出してゴールに向かう。そしてパスをもらおうとする。その時、ロナウジーニョはどうするだろうか。誰が追うのか。ロナウジーニョが追うだろうか? ロナウジーニョは一番近くにいたから、走らなければならない。もしロナウジーニョが戻って守備をするところまで追い込んだら、彼はロナウジーニョではなくなる。だから、最もよい選手を何とかしようとするには、そういやり方での対策というものが考えられる。今日も24番については、そうしようと思った。彼をマークする係りの選手たちは、24番が攻撃で果たした役割よりも、もっと素晴らしい役割を果たした。つまり、日本の攻撃に役立ったということだ。

 少し、話全体がナンセンスに聞こえるかもしれないが、私はまじめだ。いい選手だから、自分たちの誰かをマークさせて疲れさせようという考えには及ばないわけだ。例えば、ワールドカップ(W杯)ドイツ大会、フランス対ブラジルの試合はご覧になっただろうか。メンバー表には、カカ、ロナウド、ロナウジーニョ、アドリアーノ、ジュニーニョ。つまり攻撃という意味では、世界のベストプレーヤーが5人も6人もいた。その結果がどうだったか。バランスが崩れたわけだ。GKを除けば、フィールドプレーヤーは10人しかいない。1人いいプレーヤーがいて、その周りで5人の選手が走る。そうでないとチームは機能しない。それを理解しないで、ブラジルだからといって、怖がって最初から守備だけをしようとすると、彼らの思うつぼとなるだろう。日本の現実からはかけ離れた話かもしれないが、サッカーとはそういうものだ。何度も申し上げているように、(相手が)ブラジルだろうと怖がる必要はない。逆にどんな相手であろうと、軽く見てナメてもいけない。24番もそうだし、途中から出た10番(サフルフーブ)もそうだが、彼らも、どういうふうに抑えられたか分かっているはずだ。日本の選手たち、それぞれのチームの監督たちは気をつけないといけない。監督は選手たちに、相手をリスペクトする必要はあるが怖がってはいけない、ということをもっと教えるべきだと思う。

――今後も巻には先発のチャンスを与えるか?

 巻が駄目だというのか?

――駄目というわけではないが、ほかにももっといいFWがいると思うが

 具体的な名前を出してくれ

――播戸

 ナシとリンゴを比べて、どちらがいい果物かということか? ほかには?

――高松

 巻と高松の髪の色を比べてはどうか(笑)?

――髪の色はどちらが好きか?

 色の問題ではない、高松には高松のクオリティーがある。ほかの例を挙げよう。攻撃は最大の防御である。逆に、最大の防御は攻撃の中にある。巻はその点で実践している。つまり、攻撃の先頭の選手でありながらディフェンスもする。攻撃の能力という点で問題がないわけではない。しかし巻が果たす役割は、汚れ役だ。大事な役割を果たしていることを忘れてならない。相手のゴールとハーフウエーラインの間を走り回り、時にはスライディングタックルまでする。そういうFWがほかにいるだろうか? エネルギーを使っているし、非常に消耗するわけだ。消耗する中で、ボールをもらったときに、もっと集中力があれば、もっといいパフォーマンスができるだろう。
 私は巻をよく知っているので、ここで巻がいいとか駄目だとか別の評価をするつもりはない。もう少し、呼ばないでおこうか、と思ったこともある。しかし結果として、今回は呼んで正解だったと思う。お願いだから、この選手とこの選手はどっちが素晴らしいか、と比べるのは控えていただきたい。

――今は試している段階ということだが、前線での巻、我那覇、中村憲のコンビネーションはどうだったか。今日の試合で実験は成功したと思うか?

 成功か失敗かは、皆さんで判断してくれ。ただし今日の試合は実験ではない。こういう真剣勝負だから、実験だったとは言いたくない。相手に対して失礼だ。実験でなく、真剣勝負だ。もっと長い時間、一緒にトレーニングや試合をすれば、もっといいコンビネーションができたと思う。率直にいうと、これは選手たちに言ったことだが、日本には外国にプレーしている選手が7、8人はいる。彼らも、今日の試合で頑張った選手と同じくらいに、頑張ってほしいと思っている。逆に日本でプレーしている選手が、欧州の選手を脅かすくらいのプレーをしてほしいものだと思う。欧州でプレーしているからといって、代表のレギュラーだと自動的に考えるのは間違いだ。そこのところを誤解すると、海外にいる選手も国内にいる選手も、悲しい誤解のまま過ちを犯すことになる。両方が競争相手なんだという意識を持ってほしい。例えばスコットランドの中村俊輔が、日本に別の中村が現れたと聞いて、ショックを受けてほしいと思う。

 皆さん、今日は別にブラジルに勝ったわけではないので、あまり質問をしないでほしい(笑)。

――今日は三都主がいつもと異なるポジションでプレーしていたが、特に今日の試合で特別や役割、意図があったのか?

 どんな役割だったと思うか? 教えてほしい。

――試合を見る限り、あえて内側の位置からサイドに競り出して、そこで駒野とのコンビネーションを引き出すように見えたが

 その通り。それでバランスを取ろうとした。左サイドにアレックス、右サイドには対照的に中村憲剛。反対側では7番(ハイダル)と24番をアレックスと駒野が対応する。彼らも、サウジの選手の方も、中に入ってくる傾向があった。その結果、サイドにスペースができて、そこをサイドバックが上がってくる。そういう作戦を向こうは立てていた。こちらも同じやり方をして、われわれの方が成功した。つまりサウジのサイドバックよりも、加地と駒野の方が、より相手に脅威を与えた。それは相手の戦術に対するわれわれなりの回答だ。

 もしブラジルに勝ったなら、会見ではなくお祭りをしたいものだ(笑)。

サウジアラビア戦前日 オシム監督会見

――闘莉王は明日試合に出られそうか?

 闘莉王は(練習で)どうだっただろうか? 先発でなければベンチということになるが、試合ができるかできないか、中途半端などちらでもない負傷というものはない。彼自身は「大丈夫だ」と言っている。あるいはチームの中で一番元気かもしれない。明日も何も問題なければ(出場させて)いいと思っている。

――サウジ戦に向けて具体的な練習をしていたようだが

 今日のような出来だったら、試合をしない方がいい。負けてしまうだろう。もちろん、選手の側にもいろいろ理由はあるだろう。疲労だとか、今日の練習は決め事が多かったとか。(練習中)監督である私をだましてプレーしようとする選手ばかりだった。全員ではないが、一部の選手は疲れている。肉体だけでなく、メンタル面でも疲れている。Jリーグにおいて、ある結果を達成したチーム。あるいは得るものも失うものも、何もないチーム。もちろん、優勝争いをしているチーム、タイトルがかかっているチームもある。そういう(所属チームの状況に)違いがあるということを、考慮することが大事になる。代表の試合だけに出ていればいいというなら、何の問題もないのだが。しかし彼ら選手には、所属チームでの義務、責任というものが大きいわけだ。しかし私の経験からいえば、そういう試練は現代表にとっては、歓迎すべき試練だと思っている。

 今回の試合は、タイミングがあまりよくないと思う。Jリーグが大詰めを迎えており、選手たちはシーズンを終えつつあり、たくさんの試合をこなしてきたので、モチベーションが少し下がっている。また実際、予選突破が決まっているわけで、突破しなければならないという状況ではない。どうやって選手のモチベーションを高めることができるか――。それができれば、いい試合になると思う。

――新しく招集した選手を使うのか? またどんなことを期待するのか?

 新しい選手を全員使おうか? そうすれば(メディアの)皆さんも、新しい(ニュース)素材の数が増えるだろう。監督としては、チームをまとめなければならない。今がどういう状況なのかは先ほどお話したとおりだ。初めて招集された選手も、所属するJリーグで順位争いをしているのだ。つまり、どこか別の国のリーグから呼んできたのではない。だから(いつもの選手と)そう大きく状況が変わっているわけではないのだ。

 繰り返しになるが(問題は)Jリーグは今が大詰めで、選手の気持ちもそちらに向かっているということ。それから代表チームについては、練習時間が少ないのは元からだが、それに加えて疲労を取るためにリフレッシュする時間もないということだ。皆さんが記事にしたかどうか私は読んでいないが、サウジアラビアはここ2週間以上、リーグ戦を中断して代表チームの練習をし、テストマッチを1試合やり、しかもわれわれが招集するよりも前に来日して札幌に入っている。そういうことをぜひ、皆さんには記事にしてほしい。もともと年間カレンダーがこのようになっているので、それを今さら変えることはできないが、それが今後の課題だと思う。ヨーロッパのように秋に(リーグが)始まるということをやる前に、ヨーロッパでの予選、欧州選手権やワールドカップ予選の大詰めが秋に来る。これはヨーロッパのシーズンの始まりに当たる。つまり選手の疲労がそれほどない時期に、国際的な予選の大詰めが来る。それだけ違うということを知っておいていただきたい。

 とはいえ、だからといって(明日の試合が)どんな結果になってもいいというわけではない。明日の試合の結果が出た後にこういうことを言うよりは、今日のうちにお知らせしておいた方がいい情報だと思った次第だ。

――練習の冒頭で巻と我那覇が2トップを組んでいた。これまでと違い、高さのある2トップだが、サウジを相手にどういう効果があると考えるか?

 いろいろな組み合わせを今も考えているところだ。招集する選手もテストの段階だし、その中でのシステムについても、さまざまなことを試している最中だ。そのほかにも1トップでいくことも考えているし、そのサイドにシャドーで入る2ストライカー、速い選手を入れることも考えている。ヨーロッパの強いチームでは、そういうシステムを使っているところが多い。しかしまだ実験途中、実験を繰り返しているところだ。どういう戦術を採用するか、決断の問題でもあるが。

 今回けがで呼べなかった選手――播戸がそうだったわけだが、インド戦ではいい働きをしてくれた。サッカーとはそういう中でやっている。誰でもいいというわけではない。代表として呼んだなら、私は選手に対してリスペクトをもって接する。もちろん、インドがヨーロッパや南米の強豪と同じ力を持っているわけではない。だから日本が今後、世界の強豪と互角に戦えるチームにするための準備をしているところだ。その方向で、何がこのチームに必要かを考えている。これまでのところは、Jリーグでプレーする選手の中から選んできた。呼ぶだびに、新しい発見、新しい印象を持つことができて私はうれしい。Jでプレーしている日本人のプレーヤー、選手同士でも、新しい発見があったと思う。そこで今度は、外国人相手、例えばインドとかイエメンなどと試合をする。そこである程度、苦しむ。どこに問題があるのかと(選手は)自問自答する。皆さんジャーナリストの方々も自問自答していただきたい。

――選手のモチベーションということをおっしゃっていたが、戦術的にはどのような部分が勝敗を分けると考えるか?

 どういう戦術なら成功するかは、試合が終わってみないと分からないことだ。こちらとしては対戦相手にリスペクトしながら臨むので、戦術はサウジアラビアが持っているカード、つまりサウジアラビアの選手はクオリティーが高いが、そのいいところを消すということをやっていきたい。それからサウジの選手を驚かせたいとも思っている。戦術とは、相手があってリスペクトを持ち、そしてうまくやるためのカードを使うということ。もちろん日本の選手もクオリティーは高い。しかし世界は、ある程度の水準まで来ている。日本に限らないが、世界のどのチームと試合をしても、楽勝だという相手はない。それは相手に対して失礼だし、バルセロナやマンチェスター・ユナイテッドやチェルシーであっても、相手を見下して勝つことはできない。ましてや代表チーム同士であれば、なおさらだろう。

【日本代表 11/12トレーニング】練習後のオシム監督コメント

オシム監督の指導風景
オシム監督の指導風景
Q:代表選考の基準は?
「常に同じです。前回と選考基準が変わったわけではない。Jリーグの中でおもしろいプレーをしている選手を試している。ただそういった選手が多いので一度に呼べず、それを今回呼んだだけ。それ以上の説明は必要ないと思います」

Q:アジアカップ出場は決めているので、絶対に勝利が必要な試合ではないが?
「あらゆる試合が重要。年間計画を立てた時点では、日本とサウジアラビアの両方がアジアカップ出場を決めているかわからなかった。絶対に勝たなければいけない試合ではないが、国の名誉がかかっている。両チームとも何かを試すことになるが、何かを試すだけの試合ではない。テストだけで結果はどうでもいいというのは正しくないと思っている。あとJリーグが終盤に差し掛かってきていて優勝争いをしているチームの選手はそっちのほうが大事と考えている人もいるかもしれない。そういった選手がどんなプレーをするかも見どころになるだろう」

Q:札幌は寒い?
「札幌は寒いけどドームは寒くないですね。どうしても結果がほしいなら外で試合をしたほうがいいかもしれません。外でやったほうがホームアドバンテージはあったかもしれない。ただドームの中でやったほうがエレガントなプレーができるかもしれない」

インド戦後 オシム監督会見

――後半についてどう評価するか? ロングパスが多かったが

 ピッチコンディションの問題で、ショートパスのコンビネーションがうまくいかなかった。われわれは多くのパスをミスしていた。長いパスならば、ミスは一度しかない。

――インドは0-3で負けてしまったが

 インドにはよい意図があり、選手たちもまた、多くが高いレベルにある。もちろん短所もある。すべての選手がよかったとは言えないが、多くの選手はよくやったと思う。特に9番(マンジット)とキャプテンの15番(バイチュン)、2人のFWがよかった。俊敏でヘディングが強かった。彼らには、いいパスが供給されていた。

――日本のパフォーマンスについては?

 多くの選手が疲れていた。彼らはリーグでも週に数試合プレーしており、特にフィジカル面では非常に難しい状態だった。
 インドは前半の終わりごろにいいチャンスがあった。あれが決まっていたら、すべては変わっていただろう。

 それから昨日の会見で話したことだが、私はシステムを重視する監督ではない。今日の試合でご覧になっただろうが、われわれは何度もシステムをチェンジした。ポジションだけでなく、選手もだ。4-4-2、4-3-3、3-4-3……これは当たり前のことだ。ただ、昨日の会見で不機嫌な態度を取ったことは、謝りたい。

――水本の負傷交代というアクシデントはあったが、チームに流動的な動きが見られたことで満足しているのか?

 率直にいって、この会見でそのようなプレーができたと言えればよかったのだが。もしこの試合に満足なら、監督である資格はないと思う。もしここで私が「満足した」と言ったのなら、あとで自分はおかしいぞ、と気がつくことだろう。常に、次の試合はもっとよくする、そういう気持ちを持っていないと監督は務まらない。そうでないと、この仕事を辞めなければならない。今後、このチームがよくなっていく見込みがないということであれば、選手を入れ替える必要が出てくる。
 改善点で一番重要なのは、落ち着いて冷静でいられること。それから効果的なプレーをすること。スキルをもっと正確にすること。これらをひとまとめにしてひとつの単語にするなら「エレガント」ということになる。私の考えだが。選手の中には満足している者もいるかもしれないが、私はそうではない。私がここで満足したと言えば、そこで進歩が終わってしまう。だから今日のような試合は満足できない。シンプルなことだ。

――後半について、フィジカル以外にどんな問題があったのか?

 まずフィジカル的な問題があった。最初はアグレッシブであったのが、徐々に勢いが失われていった。最終的には3点差になったが、最初は「もっとできる」と意欲的だった選手たちが、途中から気力が衰えてしまった。それは経験が原因だったのかもしれない。つまり疲れてしまった。疲れないためには、ボールを持ったときにもっと落ち着いてプレーしていれば疲れないのだが、それができなかった。急ぎすぎたり、焦ったり、簡単なことをやれば楽なのに、難しいことを選択して失敗する。それが一番の問題だったのかもしれない。みんながデコやロナウジーニョのようなパスを出そうとする。それができる選手もいるのだが、できない選手の方が多い。だからもっと単純なプレーをすべきだ。自分がビッグプレーヤーだということを意識させたい選手もいた。もちろんそういう気持ちはよく分かる。代表(キャップ)が初めて、2回目、そういう選手が多かった。だから気持ちはよく分かる。皆さんはそういう選手から話を聞いてやってほしい。私は、それではよくないと思っているが。私はそういう選手に対して別のアドバイスを与えようと思っている。

――どういうアドバイスか?

 それは皆さんでなく選手に伝える。皆さんのためではなく、選手のためのアドバイスだ。別に秘密ではないが、選手に言う前に皆さんに言うべきではない。すでに選手の一部にはハーフタイムに話した。具体名は挙げないが、後半もっと落ち着いてやれば、もっと確実にゲームを進めることができた。しかし皆さんはもうお気づきになったと思うが、彼ら全員がJリーグの所属クラブでやっているゲームよりは、今日のゲームで非常に多く走っていたと思う。もちろん代表戦ということで、特別な意味があることは選手も理解していただろう。しかし今日の試合は終わった。つまり過去のことになった。今日の試合は決して無駄にはならなかったが、今後はガーナのような強い相手ともっと腕試しができるようになればいいと思う。そこで初めて日本の実力が試されるわけだ。もちろんインドと試合をしたくなかったわけではない。そんな失礼はことを申し上げるつもりはない。しかし日本は今日の試合に満足してはいけない。もっと強い相手と(試合を)やって、勝たなければならないと私は考えている。

――昨日話されていたポリバレントという意味では、前半にストッパーがオーバーラップしたり、三都主が右からアシストしたり、できていたと考えるか?

 DFがオーバーラップしてセンタリングすることは、ポリバレントの範囲には入らない。それはいいDFであれば、誰でもやることだ。ポリバレントという意味で、今日一番のプレーヤーは鈴木だった。つまり中盤の底でやって、アクシデントに対応して1枚下がってリベロになった。それから山岸が、最初は左サイドでプレーして、その後は右サイドになった。両サイドができるというのはポリバレントである。それができる選手がそろっていると、メンバーを交代せずにチームの中でポジションを変えて、全く違う戦い方ができる。そういう可能性を実現させることがポリバレントな選手だ。

 チーム全員がポリバレントである必要はない。今日は負傷者が出たので交代カードを1枚切ったが、あれがなければ別のコンビネーションの可能性があった。田中隼磨を使おうと思っていた。そして駒野をストッパーに入れる。そういうアイデアを持っていた。それも選手のポリバレントの特性を生かすテストだった。しかしストッパーの1人が負傷したことで、緊急措置として長谷部を入れて、鈴木をディフェンスラインに下げた。

――遠藤が使えなくなったことでゲームプランは変わったのか?

 例えば紙の上でメンバー表を書いて、遠藤(の不在)は中村憲剛で代用が利くというふうに一瞬見えるだろう。エレガントなプレーヤーだから。それですべてがうまくいくと試合前には想像ができた。つまり遠藤と中村憲剛、両方ともボール扱いがうまくてアイデアのある選手だ。遠くまで見渡せて、パスが正確に出せる。一方では、そういう選手を2人並べて同時に使うことのリスクというものがある。つまり、そういう選手の多くは攻撃能力には優れているが、守備能力が足りない場合が多い。そこで相手が攻める時間帯が長くなると、守備でエネルギーを使い果たしてしまい、本来の攻撃能力を発揮できなくなることがある。そういう選手も中にはいるわけだ。
 皆さんの中には欧州組を呼んだらどうかと考えている方もいらっしゃるだろうが、遠藤、憲剛、それから中村俊輔、そういった攻撃的なMFを全部並べて使うわけにはいかない、ということも今の説明でご理解いただけると思う。攻撃的な選手ばかりをそろえれば格好いいかもしれない。だが、そのようなチームでは勝てないのだ。

――鈴木を後ろに下げたのは成功だったと思うか? 例えばDFの選手を入れることは考えなかったのか?

 それではサッカーとして面白くないだろう。宝くじでも買った方が、当たる確率は高いかもしれない。つまり中盤の組み立て方、ゲームの運び方というものを崩したくなかった。だから鈴木を残そうと考えたのだ。前半の鈴木の調子がどうだったかについては、皆さんいろいろな見方をされるだろうが、彼は違った役割を後半に見事に果たした。そういうことだ。

インド戦前日 オシム監督会見

――あなたのストラテジー(戦略)は何か?

 フットボールは美しいゲームだ。だからストラテジーというよりタクティクス(戦術)とすべきだろう。ストラテジーとは戦争用語であり、フットボールにはふさわしくない。もちろんわれわれには、いくつかのタクティクスがある。もちろん、インドにもあるだろう。日本にもインドにも、お互いに長所もあれば短所もある。われわれはできるだけ長所を出し、短所を出さないように心掛ける。ストラテジーというものは、ピッチコンディションやチーム状態といったものにも左右される。

――今日の(練習場の)ピッチコンディションはハッピーか?

 決してハッピーではないが、それに適応しなければならない。われわれにはほかのグラウンドを選択する余地はない。これは日本だけの問題ではなく、両者にかかわる問題だ。どんなチームがプレーするときも同様だろう。私としてはインドのサッカー協会が、ピッチコンディションについて改善してくることを望みたい。サッカーにふさわしいコンディションをわれわれは望む。もしインドの皆さんがサッカーよりもクリケットを望むのなら、われわれはクリケットの競技場でプレーするのかもしれない。もちろん私としてはクリケットではなく、サッカーをしに来たのだ。

 インドの記者の皆さんは、イングランドのフットボールをテレビなどでご覧になっただろうか。イングランドや欧州のピッチ状態について、どう思われただろうか。サッカーをするための最高のコンディション。まずはピッチコンディションについて、あなた方の選手に質問して、それからわれわれに質問してほしい。きっと彼らも同じような思いだろう。明日のゲームで重要なのは、このピッチコンディション以上に、われわれが一晩でコンディションを改善することができないことだ。

――明日のフォーメーションは?

 どういう意味か?

――4-4-2とか

 あなたはわれわれが数字を固定化すべきと考えるのか? 最初から最後まで、4-4-2とか3-5-2とか?

――コンビネーションの問題もあるだろう?

 われわれはゲームの中でフォーメーションを変化させる。3回、4回も。4-4-2だって? 3-5-2にも3-4-3にも3-6-1にも4-5-1にもなる。われわれの選手たちは、プレーしながら変化することを知っている。私が思うに、選手は自身の考えるようなフォーメーションを形作るだろう。重要なのはシステムではない、選手なのだ。われわれはシステムを固定することはない。しかしわれわれは変化する。私はあなたと違うことを考えている。ご満足いただけないようだが(会場、苦笑)。

――ガーナ戦を踏まえて修正したと思うが、明日の試合で選手に何を期待するか?

 ガーナ戦からあまり時間がなかったので、修正するには十分ではなかった。次の試合がまたガーナだったら、ある程度修正して戦えるのだが、違う相手だ。別のチームと戦うので単純ではない。つまり修正という言葉は適切ではない。変化させる、チェンジする。チームを変化させる、戦い方を変化させるということでトレーニングしてきた。(23人の)メンバーは同じだが、ゲームの進め方は違うものになるだろう。あるいは違う選手を使うかもしれない。ただしガーナ戦での試合内容はよかったので、よかった部分は変える必要はないと思う。もし、試合ごとに大きく変えなければならないとなると、何も前進しないだろう。

――日本はすでに予選を突破しているが、順位は確定していない。11月のサウジアラビア戦を前に、できるだけ多くの点を取るつもりなのか?

 インド側が何点失点するのか、先に聞いたのだろうか? つまり学校の試験と違って、こちらが何点取れるのか目標を立てることはできない。サッカーの試合は相手がいるのであって、相手の出方というものが非常に重要になる。ここで日本の監督が「何点取るつもりだ」などといえば、逆にインドの選手たちがやる気を起こすことになるだろう。簡単な試合にはならないと思う。何が起こっても不思議でないのが現代サッカーだ。あらゆる状況に応じて、準備をする。それだけだ。

――相手が守備を固めてきた場合、何がポイントとなるか?

 インドは監督が変わったので、2月の日本でのインド戦とは異なると思う。守備的に来るのか攻撃的に来るのか分からない。4-4-2で来ることは予想するが、そこからどう変わってくるのかが分からない。そのままのフォーメーションで来るのか、そうでないのか、そこが分からないので、こちらの戦い方をあらかじめ決めることはできない。選手間の決め事はあるが、柔軟に対応することが基本だ。相手の出方によって対応する。受け身という意味ではないが、変化してきた場合は(こちらも)変化する。だから日本側から「こう行く」とは決めていない。相手の裏をかくことは考えているが。気をつけなければならないのは、インドも成長しており、しかも今回はホームであること。だから楽勝と考えるべきではないし、それは失礼だろう。特に国際試合では、いかなる相手でもリスペクト(尊敬)すべきであり、それが負けない秘けつである。

――ガーナ戦の反省を含めて、オフ・ザ・ボールの動きを重視した練習をしていたのか?

 ガーナ戦の教訓は関係ない。走らなければならないときは走る。いい試合をするためには、走らなければならない。だから走る練習をしている。ガーナ戦でも走る量はあったのだが、ただしそれが効果的でなかったというのが、あえていえば教訓だったのかもしれない。つまりガーナを圧倒することができなかった、ということ。これは私の感想であり、あなたは別の感想を抱いたのかもしれないが。

 これは日本だけではなく世界中のあらゆる国で、いったん試合に負けてしまうとどういう内容であれ、結果だけを取り上げて「負けたじゃないか、ダメだったじゃないか」とすべてを否定してしまう傾向がある。問題は、内容をどう見るか。よかった部分、足りなかった部分をどう見るか、ということが大事なのだと思う。この間の試合に関していえば、ワールドカップのベスト16で、世界中を驚かせたガーナに対して、60分まではかなりいゲームをしていた。しかしそこで足りない部分があって、残念ながら試合が終了したときには負けていた、そういうことだったと思っている。だから一晩で何かが劇的に完全になるとは思わないが、走る能力というものは走らなければ劣ってしまうので、それは常に心掛けている。

――アウエーでの試合だが、試合前日に会場で練習できなかったのは不利ではないか?

 トレーニングはしていないが、午前中に選手たちは会場を視察してピッチを確認している。もうひとつ、試合前には20分ほどのウォーミングアップを行う時間がある。20分でピッチ状態の良しあしに気がつかないような選手は、たぶん使わないと思う。
 実は今日は試合会場で練習するはずだったのだが整備中で、もし昨日の夜から今朝にかけて雨が降った場合、練習は別の時間、別の会場――つまりここでやらなければならないという条件があった。それはインドも同じ条件だったのだが、天候によって練習場所と時間が変わることは避けたかったので、早い段階でこちらでやるという判断をした。それに、トレーニングしないことでピッチ状態がよくなるのなら、それに越したことはないだろう。

――監督はいつも相手によって対応する、あるいはどんな状況や変化にも対応することの重要性を説いているが、それは監督が求める「ポリバレントな選手」の条件でもあるのか?

「ポリバレント」という言葉には、多くの意味が含まれている。必要に応じて、多くのポジションができるということ。それだけではないのだが、全員がポリバレントな選手である必要がある、と言ったわけではない。中にはスペシャリストもいる。例えばGK。もちろんポリバレントなGKもいるが、その場合はユニホームの色を変えなければならない(笑)。スペシャリストの例としては、強力なストッパー。どんなFWを相手にしても、絶対にゴールを入れさせないというスペシャリストが1人いれば……。あるいは毎試合必ずゴールを決めるFW……。しかし、そういう選手でもポリバレントであればもっといい。例えば巻がDFの位置で相手のボールをはね返すとか、あるいはこの間のガーナ戦のときのように佐藤寿人がゴール前で(シュートを)クリアしたとか、そういうことはあった。阿部が相手ゴール前まで行ってシュートする、駒野がシュートする、アレックス(三都主)がチャンスを作る、そういうものが組み合わさって、よいチームができる。だから(ポリバレントの)ひとつの意味は、ピッチ上のどんな場所でも、その場に応じたよいプレーができることである。ただしそれは「ポリバレント」というより、その選手の「クオリティーの高さ」ということになるのかもしれない。

(一瞬、会場が停電。会場がどよめく)

 さっきの(インドの)記者が、怒って電気を消したのかもしれない(笑)。
 皆さんも笑っていらしたが、皆さんだって最初は4-4-2だとか3-5-2だとか、システムにこだわっていたではないか。いつもシステムを大事に考えている記者さんがいらっしゃる。私の祖国では残念ながらシステムというものはない。政治システムが崩壊しているから(笑)。でも、ファシストのシステムがあるよりかはいいだろう。それもシステムだから。システムがあった方がいい場合、ない方がいい場合、両方あるのだ。

ガーナ戦後 オシム監督会見

(試合の感想を求められ)皆さんがご覧になったとおり。逆にこちらが皆さんに聞きたい。

――チャンスはワンタッチプレーからが多かった。それに対する評価は?

 今日の試合で、あなた方にとっていい記事が書けるかどうか聞きたい。もしそうでないなら、私は各選手にボールを1つ1つ買い与えて、ボール扱いを練習させる。しかし、ルール上はボールは1つしか使えないので、ワンタッチプレーが必要になる。
 これからが真剣な答えだが、大事なのはチャレンジすること。今日のガーナのような強豪相手に、こういう内容の試合をすることこそが簡単ではなかった。ある程度チャレンジは成功したが、しかしフィニッシュまでの成功につなげることはなかった。フィニッシュ、これが一番の問題だ。

――後方からのビルドアップが課題だったが、ガーナ戦はいいレッスンになった。これを打開するには何が必要か?

 今日の試合は教訓とも言えるが、そうでないとも言える。チャレンジは途中までだが、何度か成功した。こういう強豪とは初めての対戦。こういう試合でもできるかどうか。ディフェンスラインは4つの異なるチームから選手を選んだ。だから彼らがミスしたかどうかが問題ではなく、チャレンジしたかどうかを評価したい。ただ、いくつか気になった点があったことは、彼らも分かっていると思う。例えば私は選手たちに、家を作るときは土台が大切だと言ったばかりだ。

■大事なのは、プレッシャーの中でアイデアを実現できるかどうか

――フィニッシュが問題なら今後、欧州組の選手を入れるべきではないか。監督はそう望んでいるか。そうだとしたら協会に要望しているか?

 どのような選手を想定しているのか。

――例えば中村俊輔選手がいれば、FKから得点できる可能性は高まると思うが

 試合前に10個のFKが約束されているわけではない。FKを得るまでのプロセスが大事なのだ。昨日の練習で、遠藤とアレックス(三都主)がFKの練習をしていたときに、遠藤に注意していたのを気がつかなかっただろうか。「おい、練習でそんなにシュートを決めるなよ」と。アレックスにも同じ注意をした。実際の試合は練習とははるかに異なる。プレッシャーもある、観客も騒ぐ、ガーナの壁も日本の選手よりも高い。そうした中で、どういうFKをするか。だからFKに関しては、あまり心配することではないのではないか。

 それよりも心配事がある。夜眠れないほどの心配だ。というのも彼ら(欧州組)の出る試合が夜中に放送されるだからだ(笑)。今はまだ、日本のいろんな選手をテストしているところだ。欧州の選手は、毎週ガーナのような選手と試合している。だから、そういうチャンスのないJリーグの選手たちを集めて、どこまで力を出せるかという機会を与えるべきだ。それで、ある程度の自分の力も分かるだろう。(FIFA=国際サッカー連盟)ランキングにふさわしい力があるかどうかは分からないが、もっとできる、伸びる可能性は確認できた。ガーナというチーム、あるいは各選手と比べて、日本はどういうところなら優れているのか、伸びるのか、確認することができた。戦術面はまったく問題ない。個人スキルの点で少し問題がある。オプションのクオリティーの高さ、アイデアの豊富さ、そのアイデアを試合のプレッシャーの中で出せるか。日本の選手はプレッシャーのないところなら、アイデアもあって、それを実現できる。ところが大事なのは、プレッシャーの中でそれを実現できるかどうかということ。そこに勝敗を分ける大きな違いがある。日本の選手が、相手にパスミスをする。それを受けて、ガーナがチャンスを作る。そういう場面が何度かあった。しかし良い面もあった。小さいが前進の可能性を見ることができた。

■試合中に走って死ぬことはない

――ガーナの浅い4人のラインを破るための指示は出したか?

 いちいち細かい指示はしなかった。なぜなら日本語ができないからだ(笑)。だから細かいことは言っていない。彼らから顧問料をもらえるなら話は別だが。試合開始直後、相手の4バックの第2DFがオフサイドトラップをかけてくるのが分かった。だからもう少し、それに対して慎重であるべきだったかもしれない。実質的に、われわれは3トップで試合に臨んだ。少し勇気を出し過ぎたのかもしれない。大変強い相手に、日本は立ち上がりから非常に積極的にオフェンシブに試合を始めたと言える。そこで結果が出たかどうかというのは、それはまた別の問題だが。しかし今後もこういうやり方で積極的にやりたい。昨日の会見で皆さんに「もしかしたら4トップかも」と言ったのを覚えていらっしゃるだろう。

 いずれにせよ、チャレンジしなければ力を試せない。遠藤は今日、走るチャレンジをしていた。私はそれを見て、もっとやれと言えば、もっと走れたと思う。中村憲剛もそうだ。常々言っているように、試合中に走って死ぬことはない。もっといいプレーをするためには、もっと走らなければならない。

――ワイドにピッチを使うことにチャレンジしたと思う。オートマティズムをどう評価するか

 結婚して40年になるのだが、まだ家内との間にオートマティズムがない(笑)。それなのに、選手との間にわずか数回だけ練習をしているだけで、どうしてオートマティズムができると思うのか。3日間で数回の練習だけで、オートマティズムが生まれるだろうか。しかし、オートマティズムなしでいい試合ができるわけでもない。そのためには、選手たちがもっと頻繁に集まって、同じトレーニングをしなければならないだろう。今日のように、5人の選手がみんなクラブが違うという場合、すぐにオートマティズムが生まれるのなら、今ごろはJリーグでプレーしていないだろう。

――頻繁に集まる予定はあるのか?

 私が知っているスケジュールには書き込んでいない。だから可能性があるとは言えない。各クラブの日程、Jリーグの日程、さまざまな日程ばかりだ。とりあえずJ1が大詰めで、1つ1つの試合が白熱がしてきた。そういう中で、優勝争いをしている浦和やガンバ大阪から選手を預かっているので、彼ら自身が持っている目標というものは尊重しなければならない。ライバルチーム同士から同じ代表に集まって試合しているのだ。日本はガーナのように、選手がみな海外から集まっているチームではないのだ。

■攻撃も守備も両方できなければ、その選手の未来は短い

――3トップで攻撃的だと言ったが、私には相手のDFに対処するマンツーマンのような守備的に見えた。ホームでもっと攻撃的にやろうという考えはなかったのか?

 どういう印象を持たれたかは自由だが、先発メンバーを見れば守備的ではなかったことがお分かりいただけると思う。もし守備的にいくというのなら、佐藤勇人、田中隼磨という選手を起用しただろうし、1トップにすることもできた。サイドについて言えば、現代サッカーでは攻撃も守備も両方できなければならない。

 前線の選手が、相手のサイドバックが上がっていくのにケアしなくても済むというのであれば、ご自由にお考えになっていただいて結構だ。ところが先発のシステムはそうではなかったわけだ。例えば山岸智。彼がスタメンで出たことでたくさんのチャンスが生まれた。もちろん彼はディフェンスもした。佐藤寿人、何回か惜しいチャンスがあった。それから巻にも良いパスを出していたし、巻自身もそれに何度もトライしていた。それをご覧になった上で、それでも「守備的だった」と言うのであれば、それはあなたのお考えなので仕方がない。DFであるアレックスや駒野が何度シュートして、何度チャンスを作ったか数えてみただろうか。もし守備的でいいのなら、彼らはあそこまで出てラストパスを送らなくてもよかったのだ。守備専門であればいいのだから。ちょっと言葉がきつかったかもしれないが、サッカーというものは日々変わっていくのだ。

 これは選手によく伝わるように書いていただきたいのだが、攻撃も守備も両方できる選手でなければ、その選手の未来は短い。それが現代のサッカーのトレンドだ。だから山岸智であろうが、駒野であろうが、佐藤寿人であろうが、誰が、どの名前が重要なのではない。サッカーでは、そこでチャンスがあるか、スペースがあるか、ピンチなのか、相手がどのディスタンス(距離)で迫っているのか、ということに素早く反応して攻撃したり守備をしたり、そういう素早い切り替えができないといけない。そういう点を見ていただきたかったのだ。

 3トップで行く、その3トップが全く守備をしなくていいのであれば攻撃的である、とは言えない。もちろんトップだから、攻撃をするのは当然なのだが。残念ながら、守備も攻撃も両方できる、そのために走り回る準備ができていない選手がいる。ひとつの例だが、ブラジルには5人のオフェンシブな選手がいる。この間のワールドカップのフランス戦の話だ。ブラジルの中でディフェンスをしていたのはルシオで、彼は孤軍奮闘していた。というのも、カフーもロベルト・カルロスも、年齢的なことはあったかもしれないが、攻めたら攻めっぱなしだった。そしてロナウド、ロナウジーニョ、ジュニーニョ、カカ、アドリアーノ、そういった攻撃的な選手が全員集まったとして、今日のエシアンのようなプレーができただろうか。どう思うか?

 ただし、私は今日の試合に満足はしているわけではない。負けたのだから。しかし前進するヒントがあったかどうか、それをいま探しているところだ。もしかしたら欧州の選手を呼ばない期間が長すぎるのかもしれないが、欧州ははるか遠い場所にあるのだ。どうしようもなくなったときに、最後のチャンスをもたらす人々として助けに来てくれる、そのための準備をしようと思っている。もし欧州の選手を呼んで、最初の試合に負けてしまったら、彼らは救世主としての役割を果たせないのだ。

ガーナ戦前日 オシム監督会見

――新しい選手をたくさん入れたが、チーム作りのベースはどれくらい進んでいるか?

 どれくらいまで来ていると思うか?

――まだまだスタートの段階に見えるが

 初めだろうが終わりだろうが、メンバーを選ばなければならない。(DFが)3人では試合ができない。けが人が出たが、それは私の責任ではない。変えようと思って変えたのではなく、変えなければならない理由が生じたのだ。それで答えになっているだろうか? 闘莉王、坪井、加地の3人がけがをしてしまった。どうして3人の追加招集をしたのか、という質問だったはずだが、答えはおのずと質問の中にある。

――監督就任後、ガーナが最も強いチームだと言われているが、そのようなチームと対戦するにあたり、学習機会としてどのような期待を持っているか?

 対戦相手を決めるにあたり、ある程度強いチームとやりたいという希望を申し上げておいた。つまりいい試合で、負けても恥ずかしくない相手。同時に現在の日本の力を試すことができるチーム。つまりすべての選手が欧州でプレーしているような、そういう代表チームだ。しかも発展途上でまだ伸びしろのあるチーム。そういう相手と試合することによって、日本の選手たちのクレバーさ、危険さをはっきりさせられるかどうか、そういうものを測れるチャンスということで、そういう試合にしたいと思う。いろいろ候補が挙がったが、簡単に勝てる相手では意味がない。とはいえ現在、代表チームとの国際試合では簡単に勝てる相手というものもない。だからオプションは限られていたわけだ。今回は対戦可能な相手の中から最も強いチームを希望して、その通りになった。

――明日のスタメンについてどのような考えを持っているか?

 もしそれを私が知っていたら、発言するかもしれない。決めるのは単純な作業ではないのだ。選手同士も力が接近しているし、特徴のある選手をそろえている。もちろんガーナのスタメンが決まっていれば、ある程度の対策も決まってくるのだが。皆さんもご理解いただいていると思うが、1トップで来るか2トップで来るかで、違った状況に直面する。しかも非常に強い相手なので、敬意を払わなければならない。特に日本はけが人が出て、しかも守備のレギュラーを3人失っている。

――セットプレーの練習は三都主と遠藤が練習していたが、阿部に蹴らせることは考えていないのか?

 阿部と遠藤が(FKの)練習していたら、アレックス(三都主)はどんな気持ちになっただろうか?
 訳が間違っていたのだろうか? 冗談のつもりで言ったのだが、ウケなかった(会場、爆笑)。(通訳に)もう一回、ちゃんと訳してくれ。つまりアレックスと遠藤の2人がFKの練習をしていたが、阿部がやっていなかったからといって、なぜ3人目のキッカーとして考えられないのか。あるいは逆に、阿部と遠藤が練習していたら、アレックスはまったく蹴らないと皆さんはお考えになるのだろうか。そのへんの微妙なところをご理解いただきたい。何しろ日本代表にはFKの名手がたくさんいるが、残念ながら明日の試合では、全員が蹴れるほど数多くのチャンスを得ることはできないだろう。

 だから(今日、練習していたのは)明日の試合のためというよりも、Jリーグの試合でFKのチャンスを得たときに得点を決められるように、アレックスと遠藤は練習していたのだと思う(笑)。

――DFのけが人が出たということで、今野をその位置で練習させていた。彼はボランチの選手だがセンターバックもできると考えているのか?

 今野がどういうプレーヤーなのかは私も知っているつもりだが、トレーニングはトレーニング、試合は試合、そういうふうにご理解いただきたい。それから負傷者に代わる問題はデリケートであるということ。対戦相手のガーナは大変足の速い選手がいる。だから、いろんなオプションの中で何を優先させるかが問題になる。率直に申し上げて、青山と山口を招集したが、彼らが決して足の速い選手ではないことは、皆さんもご承知のとおりだろう。彼らと比べて今野がどうなのか、練習で試してみてもいいだろう? もうひとつ、今野自身もけがから復帰して間もない、微妙なコンディションだ。だから実際、この3人のうちの誰かを先発で出場させて、どんなプレーするのかということは、監督の私でも予想ができない。

 もし相手が2トップで来ることがはっきりしていたら、その場合は阿部をリベロに起用して、その前に水本を含む2人をストッパーに置くことを考えている。2ストッパー、プラス阿部で試合が始まるとして、ところが相手が1トップで来た。その場合、2ストッパーはどうするのか。つまり試合開始から、攻めに加わる選手が1人足りない、そういう状況になるわけだ。専門記者の皆さんには、今の説明でご理解いただけると思うが、何度も申し上げているように、両方の事態に対応できる選手を招集したつもりだ。2トップにも対応できるし、1トップで来てもすぐに変化して対応できる。どちらで来るか、それを予測するのは難しい。

 実はガーナの監督(クロード・ルロワ)は私の親友で、だからこそ「明日の先発は?」などと破廉恥な質問はできない。
 大体、そういう方向で試行錯誤していると考えてほしい。(スタメンについて)直接答えることは(相手があることなので)、私自身が先発を決めることはできないのだが、どういう方向性で何を考えているかということは、ヒントを与えているつもりだ。逆に皆さんが監督で、私が記者で「明日の先発はどうしますか?」と質問して皆さんに答えていただく、その方が私としては楽なのだが。

――今日の練習でサイドからの攻撃について細かい指示を与えていたが、それはガーナを想定した練習なのか、それとも普段からの練習なのか

 特に明日の試合だけでも、日本代表の特徴というわけでもない。現在の世界のサッカーのトレンドである。近代サッカーではどんどんスペースが狭くなって、特に中盤の真ん中をペネトレイト(突破)できないようにブロックするというのが、現在のディフェンスの主流なので、残された攻撃のオプションはサイドから、ということになる。だからサイド攻撃を重視するというのは、私だけでなくどの監督もやっていることだ。

――DFの話が出たが、それではオフェンスについてはどうか? 相手は4バックで来るようだが、どういうFWの組み合わせがふさわしいと思うか?

 私も4バックと予想している。では日本が4トップで行く、という話ではないだろう(笑)。ただ向こうの4バックのうち、サイドバックの選手は非常に攻撃的だろうと予想している。だから向こうのDFが4枚、というのは正確ではない。攻撃もできる選手がそこに含まれている。つまり日本の攻撃陣の中にはポリバレント――つまり複数のポジションをこなせる選手を入れようと思っている。攻撃もできるけれど、守備もできる、そういう選手だ。以上のヒントで(スタメンを)予想してほしい。

――相手のDFに攻撃的な選手がいるということで、今日の練習で巻に相手の守備陣を上がらせないような指示をしていたようだが、格上の相手と対戦するということで前線からのケアが重要であると考えているのか?

 確かに今日の練習中にそういう指示は出した。だが、それは特別なことではないし、私が発明したことでもない。相手が4バックか3バックかによっていろんなやり方があるわけだが、大事なことは、これは巻だけではなく、我那覇にも佐藤寿人にも言えることだが、チームのほかのメンバーがどうしたらプレーがしやすくなるか、考えてプレーをしろと指示した。特別なことではない。それから現在のサッカーは、ボールを失った瞬間からディフェンスが始まる。つまりFWの選手がボールを取られたら、最初にDFにならなければならない。そういうことを確認していた。

 ただ、今の質問は大変よい質問だ。まるで私がサッカー学校のテストを受けていて、皆さんが質問を出して私が回答をしているような感じだ。「戦術」という科目で私が合格したかどうか、判断してください。

――今日の練習で三都主が左サイドバックで練習していた。ジーコ監督時代でも同じポジションでプレーして、本来の持ち味である攻撃力が出せなかったが、監督は彼がそのポジションでできると考えているのか?

 ワールドカップの試合は見ていたが、クロアチア戦、それからもしかしたらオーストラリア戦でも、アレックスが一番良いDFだったではないか。皆さんももう一度、試合のビデオを見てほしい。皆さんもアレックスがどんな選手なのか、どんなことができて、どんなことができないのか、ご存じだろう。問題はアレックスよりも良い選手、代わりになる選手がいるか、ということ。しかも彼は左利きだ。日本で左利きは貴重だろう? 貴重でしかも、アレックスよりも優れた選手が、果たして何人いるだろうか? 彼があのポジションで練習していたのは、私がジーコに相談したからでも、アレックスの希望を聞いたわけでもない。必要に迫られて、あそこでプレーしてもらったということだ。

 若い選手の中に、あの役割ができる選手がいるのかもしれない。U-21代表や、その下の年代にも同じポジションの選手はいるから、彼らが伸びてくれば別の使い方があるのかもしれない。これまで駒野をあのポジションで使ってきた。テストの結果は、合格とも不合格ともいえる。つまり守備は合格、良いプレーをしていた。しかし攻撃面では、もっとできるのではないかと思った。これ以上お話すると、個人の人格の問題になってしまう。これ以上、選手1人1人を俎上(そじょう)に載せて料理するということは控えさせていただきたい。アレックスがあの位置でプレーするのが気に入らないという人は、どうかそういう記事を書いてください。ただし、アレックスのせいではなく、オシムの使い方が悪いと書いてほしい。

――監督の話の中で「ポリバレント」、つまり複数のポジションを使いこなすという言葉は非常に重要だと思われるが、今後もキーワードとなり得るのか?

「ポリバレント」というのは、実は化学の言葉で、そういう本を読めばたくさん出てくる。「化学的なサッカー」というのも悪くはないだろう(笑)。

【日本代表 10/1トレーニング】練習後のオシム監督コメント

オシム監督(日本代表):
「いつものことながら代表選手を選出するのは大変なことだ。けが人が出たため、いつもよりも大変だった。ただJリーグはたくさん観ているし、数あるオプションから選べるというのはいい機会。アジアカップの予選を通過して、次の試合は親善試合。新しい選手を使うことも考えている。アジアカップの本大会まで時間があるので、時間をかけて熟成させたい」
Q:追加招集は?
「負傷選手の代わりを選ぶということは難しい。ただふさわしい候補はいる。タイムリミットがあるので、スタッフと検討して決めている。ある程度経験を積んでいる選手と若い選手を呼ぶ。若い選手の方にはチャンスを与える方向で考えている。山口、青山、今野の3人だ」

Q:チームのどのようなところをこれから修正していくのか?
「これまでの試合で満足している部分もあるが、大部分で満足していない。変える部分は多い。すべての選手が代表に呼ばれて、ちゃんと集合して意欲を見せている。その点は評価している。ただ相手の強さということもあるので、それがすべていい結果になるとは限らない。ガーナは力試しには絶好の相手だ。つまり強い相手とやることで、実力が発揮できるかどうかがわかる。これまでの試合とは違う局面が見られるかもしれないし、今後の修正の必要性もわかる」

Q:Jリーグで素晴らしいプレーを見せている播戸選手が代表に入ったが?
「あなたは今素晴らしいプレーといったが、もしかしたら私はそう考えていないかもしれません。確かに得点はたくさん取っているが、得点が多いことと素晴らしいプレーというのは若干違う。どういう状況で誰が相手か、そこで変化を付けられるか。もちろんゴールは大切だが、ゴールが一番大切ではないこともある」

Q:ガーナはベストメンバーに近い。日本は欧州組をなぜ呼ばない?
「それは私が頭を使っていないということでしょうか?先ほども言いましたが、代表選手を選ぶのは大変なこと。選手選考のために私は眠れない夜を過ごしている。彼らの試合は朝の4時からだからだ。昨日も2時からの高原が出場したゲームを見た。それを観ていると眠れないのです(笑)。彼らも考えに入っているということは話しておきましょう。チャンスも当然ある。代表に呼ぶということで慎重に考えている。彼らの身になって考えてください。彼らは里帰りに、旅行に来るのなら、そのリスクは大きくないかもしれない。しかしその間に誰か別の人に働く場所を奪われてしまうこともある。私の考えでは、彼らは欧州で日本のサッカーを見せるためのショーウインドウだ。一流のチームでレギュラーというのは貴重な存在。彼らが日本に来てプレーしても、欧州のマスコミがそれを取り上げることはしない」

Q:田中選手が外れたが?
「私の基本的な方向性は変わっていない。選手のほうが変わったということでしょう。田中は田中だが、今回は休んでもらう。けがから戻ったばかりで、タイトなスケジュールで戦っていた。完全に戻るためには時間が必要だろう。彼への期待は大きい。もちろん代表の一人だと思っている」

イエメン戦後 オシム監督会見 AFCアジアカップ2007予選 第4戦

最も大変な種類の試合だった。なぜなら日本のメディアもサポーターも「勝って当たり前」という雰囲気があったからだ。試合が始まれば勝つのはこっちだ、点が入るのは時間の問題だ、そういう雰囲気がある。選手たちも誤解して、相手がいることを忘れてしまう。それは大変に危険なことだ。相手は失うものは何もないので、落ち着いてプレーができる。そういう状況のゲームだった。
 対戦相手にも何人かの優れた選手がいた。われわれはそうした選手を警戒しなければならなかった。どちらが背が高いかということは、あまり問題ではなかった。このような(芝のはげたデコボコの)ピッチ状態だったので、何かのアクシデントでゴールが入ってもおかしくない状態だった。

――勝ち点3という結果には満足しているようだが、内容については満足していないのではないか?

 勝ち点6取れればもっとよかったが、1試合では3しか取れない(笑)。内容については、引き分けで満足しなければならなかったかもしれない。すべてではないが、試合のある要素、ある時間帯を見ると、そういう覚悟もしなければならなかった。私が代表監督になって今日が4試合目だが、いずれの試合でもものすごく効果的なプレーはできていない。別に選手たちを批判するつもりはない。選手たちに「君たちはここがいけない、こういうところが欠点だ」などと言い立てると、逆にコンプレックスとなってサッカーが下手になってしまう危険性がある。

 これは日本サッカーの持病というか、あまりすぐに治りそうにない病気と考えるべきかもしれない。例えば以前の代表の試合、オマーン、バーレーン、シンガポール戦などでは、0-0、あるいは1-1のまま試合終了間際までいって、やっと1点差で勝つという試合があった。今日の試合については、それと違う面もあった。私たちのチームは、これまでよりもテンポの速い試合ができたし、チャンスの数も昔のチームよりも多くなったのではないか。ただ、そのチャンスを生かせないという点では同じだが。

 さまざまなサッカーの哲学者がこの中にはいらっしゃるだろう。ここで巻がミスしなかったらとか、俺がゴール前にいたら決めていたとかおっしゃるのかもしれない。しかし、大事なのは相手がいること、こういったピッチコンディションであること、それからシュートをする瞬間、その場所まで走らなければならないということ、これらを忘れてはならない。別に皆さんに「やってみろ」と言っているわけではない。紳士的にお話しようと思っている。

 イエメンに対して、まずは敬意を表したい。仮定の話だが、新潟の試合もかなり際どいものだったが、あの時ようやく(阿部の)1点が入る、さらには佐藤寿の追加点が入る、そういったことがなくて引き分けでこちらに乗り込んできた場合、あるいは今日の試合でイエメンが先制点を取った場合、どんな結果になっていただろうかと想像してみてほしい。相手がいるわけだから、簡単なものではない。イエメンがそうなっていたら、もっともっと攻めてきただろうし、試合内容もまったく違っていたものになっていたと思う。

 率直に申し上げるが、先ほどイエメンの記者から「どうして最強のチームを連れてこなかったのか」という質問があった。私は「今来ているのがベストチームだ」と答えたが、プレーヤーがベストだということではない。プレーヤー個人の力を比べれば、連れて来た選手よりも優れた選手はいるかもしれない。しかしサッカーは個人競技でなく、集団競技である。集団として、どういう力を発揮できるかというのが重要だ。だから集団プレーに向いている選手を今回連れてきた。
 まあ、どんな選手が素晴らしいかということについては好みもあるから、いろいろな意見もあるだろう。ラテン語でも「たで食う虫も好き好き」という意味の言葉があるのだが、趣味について議論するのは意味がないということだ。これまでの4試合、ゴールを挙げるまで、どれだけ私が心の中で苦しんだことか。こんな試合の監督をやるくらいなら、炭鉱労働者をやった方がいいのかもしれない(笑)。しかし、人生とはそういうものではない。生き残らなければならない。

ここだけの話だが、選手たちは大変疲れている。それなのに……。死にそうなくらい疲れているのに、走る気力、戦う気持ちというものを出してくれた。もう少し準備期間を取れるようになれば、コンビネーションプレーももっといい状況で、皆さんにお見せできると思う。
 DFは以前よりは比較的よくなった。遠藤は、人生で一番走ったと、この間の試合で言っていた。彼は非常に素晴らしい選手なので、走ることが加われば成功するのは間違いないだろう。だから、徐々にではあるが進歩していると考えていいと思う。

 それからもうひとつ、アジアサッカー連盟に対して言いたい。批判ではないが、どういうスタジアムで試合するかということを考慮してほしい。サヌアの2000メートルの標高で試合をするなと言うのではない。そうではなくて、今日のようなピッチ状態で試合をするのは(選手たちが)かわいそうだということだ。こういう試合では、偶然に負けてしまう可能性もある。

 このチームの選手選考は、いいものだと思っている。今後数年間、比較的年齢の上の選手が4年後もいるかどうかは分からないが、進歩、前進を始めたところだと思う。しかしコンビネーションプレーという意味ではまだまだだし、Jリーグでは重要なポジションは外国人がプレーしていて、本当に必要なポジションでのプレーヤーがうまく育たない環境がある。だから、発展し始めたといっても、その道は決して平坦ではない。代表監督だからといって、Jのクラブの監督に「こういうふうにしてくれ」などと命令するわけにはいかない。

――チーム立ち上げのこの時期に、こうしたハードな試合をこなしたことはよかったと思うか?

 経験ということか。それは私個人の経験だけでなく、皆さんも含めて選手も経験を積んでいくものだと思う。一種の共同作業だからフェアにいかなければならない。
 田中達、佐藤寿、巻、我那覇らが代表に選ばれていない時期には「どうして彼らを選ばないんだ」という記事を皆さんは書いていたと思う。今、彼らが選ばれてプレーして、少しでもミスをすると「何であいつらを使っているんだ」という記事を書いていないだろうか? また全部のJのチームを見て回って、またFWを4人追加で選ばなければならないことになってしまう。先ほどの趣味の話に関連するが、今回連れてきた4人のFWよりも、いいFWがいるのなら誰か教えていただきたいものだ。

(会場、無言)

 矢野とか、高松とか、大久保、大黒……名前を挙げればきりがないだろうが、それではいい選手は誰か? 誰かいるか? だからミスをしたとか、得点力不足だとか、そういう批判を簡単にしてもらっては困るのだ。しかし同時にFWの彼らが、集団の中で生きるようなトレーニングをしなければならない、ということも考えている。シュート練習、キック練習というものは、彼らもボールを買うくらいの余裕があるだろうから、買ってもらってクラブでやってもらいたい。まあ、買わなくてもクラブにあるだろうが(笑)。

(プレスオフィサー「大変すみませんが、そろそろバスが出発するので」)

 いずれにしろ、「今日は勝ってよかった」と言えるに値する内容であったと思う。ただし、負けないときにも学ぶものがある。サッカーとはそういうものだ。これまでの4試合、日本と相手チームとのシュート数の合計を比べてみてはいかがだろうか。得点、失点の問題もあるだろうが、興味深いものがあると思う。そこからサッカー哲学が生まれるかもしれない。こうすれば必ずゴールが入る、または、こうしたら絶対に失点する、そういった法則が見つかるかもしれない。実際には、そういう哲学や法則はないのだが。
 今後は親善試合を含めて、なるべく若い世代のプレーヤーにチャンスを与える機会があると思う。予告しておこう。ただし「オシムのリストに新しい100人の未知のプレーヤーがいる」なんていう記事は書かないでもらいたいものだ(笑)。まあ、そのうち話をする機会もあるだろう。

(プレスオフィサー「すみません、飛行機の時間もありますので」)

 よかったら帰りの飛行機の中で、一晩中話してもいい(笑)。

【日本代表 vs イエメン代表】前日練習後のオシム監督コメント

Q:相手は守備的に来ると思うが、点を取るためのディテールの修正は?
「向こうが守備的に来るというのは監督にインタビューしたのですか?(質問者が「いえ、してません」と答えると)どうして守備的に来ると分かるのですか?(「力関係として日本が主導権を握ることが予想されるからです」と再び応じる)政治的な力関係についての話ですか(笑)?政治経済は難しいです(笑)

サッカーのことで言えば、力関係は接近している。特にホームだから向こうが守備的に来るとは思っていない。イエメンがサウジアラビアとホームでやった時には大変オフェンシブで、結果はサウジアラビアが勝ったわけだが、イエメンがリスクを冒して攻め、サウジアラビアがカウンターで得点を奪った。内容的にはイエメンが攻めていた。だから新潟での試合と違って、彼らも力を発揮しようと狙ってくると思う。もちろん、日本と試合をするわけだから、こちらの出方にも関わってくる。どういう戦い方になるかを想定して、どんなことにも対応できるように準備をしている。日本選手は幸いにしてクレバーな選手を連れてきたので、多分できることだろうと思っている。ご覧のようにピッチ状態がよくないので、利益を得るチーム、あるいは不利益の出るチームが出ると思う。つまり、運によって左右される確率が高いのではないか。現在のサッカーはダイレクトプレーや速いプレーが主流となっているが、こういうピッチではそれが通用しない。少なくとも日本の方がハンディキャップがあると言える。彼らはホームであり慣れている。

しかし、イエメンの側にも中盤で優れたテクニックを持っている選手が何人かいる。彼らにとってこういう状態は都合が悪いのではないか。予測できない事態が発生するかもしれないということを計算に入れて試合に臨まなくてはいけない。とりわけ、ミスが出るということがある。通常の試合では考えられないようなミスが出るということ。

とはいえ、このイエメンのサヌアに来て試合をするというのは、大変いい機会だと思っている。こういう状況にも適応しなくてはならないということを選手たちが学べるからだ。個人能力ではなくチームの力で適応できる、そういうことを望んでいる。今、話を長々としているのは、質問に対する答えということではなくて、ただ事実を淡々と述べているだけ。そこに全て解決しなければならない問題が含まれている。相手がホームでアグレッシブに来ると考えているし、リスクを冒してくるかもしれない。向こうは0-0でいいとは考えていない。そういう試合展開になるということを想定して準備をしているということだ。答えは明日の試合で出るでしょう」

Q:ピッチコンディションが悪いと言われたが、有効になると思われるセットプレーについては改善は期待できるのか?
「私はピッチコンディションが悪いと言う言葉で表現したわけではない。ピッチコンディションはこのような状態であると申し上げただけ。(通訳に対して)きちんと翻訳してください。私が例えばどこかの王国の王様や皇太子でここに来て、非常にいいグランドであると言えば、それはいいグランドであるという風になるわけですから(笑)。みなさんが見て『いい』と考えているのなら、そこから考えを明らかにしますが…。

この質問の回答を始めるが、セットプレーも大事ということは一般的には言えることだが、ただ理論上のことで、試合は始まってみなくては分からない。日本の思うようにイエメン側がファウルをしてくる。そこでFKを得られるとは限らないし、FKを上手く生かせるかということも試合が始まってみなくては分からないこと。ですから、あらゆる可能性をチャレンジして試合では全力を尽くすということだけ申し上げておく。負ける可能性もある。ボールがイレギュラーバウンドして試合に負けることもあるかもしれない。

ここで記者のみなさんに理解していただきたいのは、自分たちがどういう意図を持ってやったのか、それが上手くいったのかということ。誰も最初から負けようと思ってのぞむ選手はいませんし、負ければ残念だが。サウジアラビアに負けたのは個人としては大変残念だし、皆さんがどういう記事を書いたのかまだ読んでいないので分からないが、もしかしたら読まない方がいいかもしれない。負けることを臨んでいるわけではないけれども、どういうインテンションで目標で臨んでどういうプレーをしたか、どういう努力をしたか、そういうことを理解して頂きたいと思っている。

サウジアラビア戦のビデオを3回見たが、つくづく思ったのは、サウジアラビアのゴールに向かってのシュートはあの1回だけだった。それはこちら側のミスからのものだったし、得点シーンはチャンスらしいチャンスではなかったところから生まれた。それに対し、日本は少なくとも7回はあった。入ってもおかしくはないシーンばかりだった。ところが試合に勝つことはできなかった。試合の内容としてはチャンスの数では日本が多かった。しかし、結果は負けました。そういうことが実際に起きているわけし、イエメン戦でもそうなるかもしれません」

Q:高地と酸素濃度については?
「到着してから何も変わったことは感じていない。しかもそれは私だけではなく、選手も相手側も同じ条件。やってみれば分かります。ボリビアやペルーやエクアドルなんかは3000mでやっています。メキシコも2000m級だし、イエメンが、もしそういう地の利を生かして勝とうとしているのならば、それが自然な最もなこと。これはヨーロッパでもそう。例えばスカンジナビア諸国がスペインと対戦する、それに勝ちたいと思う時には、ノルウェーのフィヨルドまで連れて行って過酷な条件で試合をするわけです。それはサッカーでは当然のこと。サナアで試合をするという条件は変えられない。ここの酸素の薄さや標高の高さを変えることもできない。もしかして対応するということを最優先で考えるのであれば、日本サッカー協会が日程を調整して1ヶ月前に現地に来て高地トレーニングをして、準備をするということが理論的には可能ですよね。それがよかったかもしれませんが(苦笑)。まあ、その条件でやっていくしかないと思うが。ここの人にとっては個々の空気や環境は当たり前のことだから、現地の人にとって当たり前のところで当たり前に試合をして、できれば勝つということ。酸素は幸いにして生きていくには十分の量があるようなので(笑)」

Q:先ほどクレバーな選手たちを連れてきたといわれたが、、今日の練習を見てクレバーだと感じたか?
「日本に残っている選手がクレバーでないというわけではないですよね?代表に入った選手が特別に優れているというわけではない。その意味では。サッカーというのは大学などの学校とは違うわけで、もっとクレバーな選手であれば、大学に行ってお医者さんや政治家になっていると思う(笑)。選手たちのトレーニングのプレーには満足はしていない。が、クレバーでないとも言えない。毎日新しい要素を入れてトレーニングをしているし、こちらも試すトレーニングもある。選手たちがついてくるのは容易ではないと思う。もちろん代表選手というのは代表チームだけではなく、各クラブでもプレーしているわけだから、人生を2倍生きているようなもの。Jクラブという人生それから代表チームという人生、2つ生きているわけです。

例えばヨーロッパの各クラブのリーグと代表チームの戦い方が似ているというところまで行っていないし、代表チームが1つの強いチームを軸にして作られているわけでもないから、各クラブと代表のやり方、トレーニングも違ってくる。しかしそれは悪いことではない。というのは、各クラブで自然と頭を使っているし、それがいいと思ってやっているわけで、同じくらい代表に来て頭を使えば無理なく対応できると思う。全部が同じやり方ででできればいいし、一番楽なのだが、こういう違うコンディションのところに来て適応力があるかはまた別の話になってしまう」

Q:フォーメーション練習で外れていた加地、駒野、鈴木啓の3名について、明日はサブか?
「がっかりしたのは確かだ。が、まだ変えるとは決めてはいない。普段の力を発揮していなかったのはご指摘の通りだ。その中の何人かは、はるかにいいプレーができたはず。駒野と加地の2人はディフェンス面では問題ない。私が望んでいたのは、相手にとってもっともっと危険な地域に侵入するプレーだ。彼ら2人のメリットは足が速いこと、守備がしっかりしていること。それが基本になるクオリティーです。それを生かしつつ、スピードを生かして攻めることや守ること、そういう能力があるか、もしあるとすればオフェンスでその能力を使いたいと考えていた。鈴木啓については大きな問題があったとは思っていない。相手のいいところをつぶす、そういうプレーを忠実にやっていた。日本のマケレレです。これはマケレレにとって褒め言葉だが(笑)。鈴木啓の方がボールを持って攻めるときに力を発揮することができる選手だと思う。それは私が今、発見したことではなく、みなさんがご存知のことだが。サッカーは10人でやるものではなく、もう1人いる。これまでの日本の試合では、阿部、加地、駒野、闘莉王、坪井といった選手が守備のベースになっていたが、それらの選手もつねに使えるというわけではなく、時にコンディションや対戦相手によって変えるということだ。

例えばこういうピッチコンディションで、もっと相手のケアをしなくてはいけない場合、あるいはクリエイティブな選手を投入しなくてはならない場合、いろんな場合が考えられますが、それは柔軟に対応するということ。サッカーのルールが変われば、違った戦い方をしなくてはならない。鈴木啓の調子が悪ければ、中村直、羽生、山瀬、長谷部などの選手が代わりをすることは大いにあるわけです。ただし、現在の日本には守備もできる、攻撃も素晴らしいという両方をできるMFがいないのも事実だ。

ブラジルを例に挙げると、ロナウジーニョ、カカ、ジュニーニョと3人の優れた選手がいる。しかもすごく優れている選手だ。でもフランス戦ではどうだったか?オフェンシブの3人を併用するのではなく、1人引っ込めてディフェンシブな選手を1人増やした方が良かったのかもしれません。そういうことです。そして前線にはそのほかにロナウドとアドリアーノがいる。合わせて5人の世界的な大スターが揃っていたわけです。スター選手ですから派手に扱われますが、実際に試合が始まってみてディフェンスはどうだったのか?
明日同じメンバーで試合をしてどうなんだ?というのはまた違う。守備がしっかり組織されたチームに勝つのはブラジルであっても難しいということです」

Q:昨日はシュート練習をしていたが、日本人はキックの種類が少ないと思うか
「それはどういう意味か。」

Q:昨日練習をしていたが、日本人のシュートの精度についてどう思うか?
「よくなかったということ?あるいは下手だったということ?それはご指摘の通りだと思う。何かが欠けているところがある。それはシュートだけでなくて、スキル全体の問題が含まれている。体のあらゆる場所でボールコントロール、しかもそれがいろいろな種類のボールを止める、蹴る、あるいは切り返すそういうことができる能力があればいいわけです。そういうことが日本ではリフティングなどレクリエーションの1部として扱われているが、実際のプレーに生かされていない。あとはメンタルの問題がある。楽しんでやっている時の集中力に問題があるのかもしれない。昨日の練習で残念だったのは、GKがシュートを防いでしまったので、夕食時間が遅れた選手がいたことだ(笑)」

オシム監督の良いところ

色々な賞賛、賛辞(頭脳明晰、数学の先生等)言われているけど彼の真髄はそこではない。人間としての温かみ、人を動かすのはお金や理屈ではなく心だという事を大前提にしている事。ここを勘違いしては絶対にいけない。だから上手くいかなかった時の彼の気持ちは「悲しい」なはず。
人は自分の為や人の為を問わず普段以上の力を出す時というのはどんな時か?「これやったら百万円あげる」「これ出来たら上にしてあげる」では人は動かない。これではモチベーションは上げられない。自分の命を金や権力にかえる奴なんかいないから。愛する者の為(その人の誇りや名誉も含む)、自分の大切にしているものが傷ついた時、死が迫った時人は死に物狂いで動く。そこまでやった時の状態を「一生懸命やった」と言う。その時に足りないと感じたものは、その後克服する為に夢中になる。
ジェフが強くなった理由は効率の良い練習のおかげでもある。ただし前提に「一生懸命やらない事は恥ずかしい事だ」という気持ちを植えつけられている事にある。一般の人はその事で泣く事はそうそうないとは思う。恋愛くらいか。でもジェフの選手はリーグ戦で負けると泣く。「いい大人が情けない」とは言えない泣き方。ワールドカップでも負けたチームは泣く。ジェフの選手は技術は違えどそれと同じテンションで試合を戦っている。これで強くならないはずがない。俺がオシム監督を全面的に支持する理由はここにある。Guns and Rosesも、手塚治のBLACK JACKも俺が好きなものはみんなシャイだけど一生懸命やる。その上で技術があり、頭の良さがあり、才能がある。もしかしたら「最後に大切なのは温かさだ」という事を知っている事自体が才能なのかもしれない。オシム監督は数学の学者などではなく、芸術家だと俺は思う。

サウジアラビア戦後 オシム監督会見 AFCアジアカップ2007予選 第3戦

――今日は中盤でボールを取られることが多かったが、それは相手が良かったからか? それともこちらが未熟だったからか?

 チャンスの数がどちらに多かったか、考えてほしい。得点ではなく、チャンスの数は、日本とサウジ、どちらに多かったと思う?

――日本の方が多かったと思う

 試合の内容を表す意味で(その数字は)雄弁だ。残念ながら相手には数少ないチャンスで得点を奪われてしまったが、全体的な内容としては悪くはなかった。中盤のボールについては、試合なのでいろいろなことがある。特にサウジは中盤に人数をかけてきて、それぞれの選手もうまかった。こちら側としては左サイドに問題があった。しかし問題はそこにあったのではないと思う。最大の問題は前半15分くらいの間に、奪ったボールをすべてプレゼントしてしまったことだ。精神的なプレッシャーとか、疲れとか、そういう問題がないところで、持っているボールを簡単に相手に渡してしまった。だから私は怒った。相手がタックルを仕掛けてきたわけでもないのに、10回ボールを持ったら10回とも渡してしまうとは、どういうことか。それは今日の試合に限った話ではなく、日本のサッカーが抱えている問題だと思う。その時間帯の後は、かなり落ち着いてボールを扱えるようになった。それについては、良い部分、悪い部分、両方をとらえておく必要がある。準備に時間はかけられなかったし、サッカーは一種のオートマティズムが必要になるスポーツだ。そういったコンビネーションがないチームは、いい試合ができない。だから試合の中の部分部分では、非常にしっかりできていたとは思う。

 特にオフェンスの選手の中に問題が集中していたかもしれない。それは一朝一夕で改善できる問題ではない。ある意味で選手たちが、これから学ばなければならない問題だと思う。それはネガティブなオートマティズム、必要のない癖がついていることだ。サイドでボールを持ったらすぐにセンタリングしてしまう。中に選手がいないとか、逆サイドにスペースがあるというのに、密集地帯にボールをフィードするとか、考えていないセンタリングをする。そういった問題を除いては、走ること、アグレッシブに戦うこと、そういった点は良かったと思う。だからこそ、日本の数多くのチャンスにつながったのだと思う。

 結果として負けたのだから、ジャーナリストの皆さんは怒って、もっときつい質問をしていいと思う。サポーターの皆さんも(厳しくて)当然だと思う。しかしわれわれは、現実からスタートしなければならない。もし相手がブラジルだったら、ひとつの試合に負けたということで、なぜ負けたかについて延々と話してもいいだろう。しかし相手はブラジルではない。そして目指している方向、運動能力を高めようということ、サウジアラビアよりも走るということ、そういう点では勝っていたと思う。だから内容に反して結果が出なかったということ。選手たちには個々人、それぞれ言いたいことはたくさんある。しかし(彼らが)冷静に考えられるまで、待とうと思う。(Jの)試合の翌日に出発して、十分なトレーニングもできないまま、時差ぼけ、高温多湿、そういうコンディションで、しかも今日の試合には負けてしまった。選手たちにとっては、大変気の毒なことだと思う。

――以前、敗北から得るものがあると言っていたが、今回の敗戦は若い選手に対してどのような意味を持つと思うか?

 まず、負ける場合もあるということを学ばなければならない。負けること、そのものがためになるのではない。内容はこちらが良かった、しかし負けた。そこから何が学べるかということだ。そこを考える姿勢が大事だ。サウジにとっては、とにかく1-0で勝ったことが重要なので、試合の内容については明後日には忘れてもかまわない、ということになるだろう。

――最初の15分間、相手にパスをプレゼントしてしまったと言ったが、それはパスの出し手と受け手、どちらに問題があったのか?

 たぶん白と青の区別がつかなかったのだろう。よくあることだ。特にこれまで対戦したことのない相手、しかもブラジルスタイルの相手と対戦するときには、そういうことが起こる。ブラジルスタイルというのは、選手が動きながら、そこにボールが来ることを予測する、そういうスタイルだ。先を読むことに慣れていない選手は、相手にパスすることになってしまう。また相手もパスのコースを予想しながらカットするように動いてくるから、注意深くプレーしないといつもカットされることになる。しかし15分以降、ずいぶん内容は改善されたと思う。改善できそうな小さな問題だろうが、もっとアグレッシブにいけばミスは少なくなるだろう。もちろんスキルの向上も必要だろうが、それは一朝一夕には難しい話だ。

――巻に何かトラブルが起きたのか?

 もっと多くの問題を抱えた選手がいた。巻のプレーに問題があったわけではない。彼は大変よく動いて戦った。それは評価していいと思う。ほかの選手の足りなかった部分を補ってくれた。そういう中でゴール前でチャンスをもらっても、集中力が欠けることはあり得る話だ。彼はゴール前で待っているようなタイプのセンターFWではない。ものすごくエネルギーが必要なのだ。特に今日の試合では、相手のセンターバックが2人とも大きかったので大変だったと思う。だから巻に問題があったというよりは、中盤全体に問題があったというべきだろう。前線で、巻と田中達也が動き回ったとしても、中盤の遠藤やアレックス(三都主)や阿部や鈴木や駒野、そういった選手が前線にからんでこなければ、せっかく動いても、ただの無駄走りになってしまう。そこに問題があったのだと思う。チャンスはあったのに残念だ。もう少し落ち着いてプレーしていれば、1点、2点、3点は取れたように思う。

 最初の話に戻るが、負けることも悪くない、ということはある。主導権を得て、相手よりも多く走ってチャンスを得て、それで勝ってしまっていたら、そこから学ぶものはあっただろうか。今日の敗戦には、今後のための研究材料がたくさんある。

――今日の敗戦を受けて、次のイエメン戦でメンバーを変えることは? またターンオーバーのようなことは考えているか

 24人の選手を連れてきたのは、そういう意図があったからだ。疲労や不慮の負傷もあり得るし、巻も問題を抱えているそうだから(笑)。ひょっとしたらほかの選手も「実は問題を抱えている」と申し出るかもしれない。
――中盤の連動の問題を指摘されていたが、押し上げが全体に不足していたのは、アウエーの要素もあったのか?

 一口では言えない、さまざまな要素があったと思う。中盤とは、非常に複雑なフィールドだから。ひとつには対戦相手がどういうチームか、そして自分たちがどういうプレーをしたか。それから自分たちのプレーの中で、どれだけリスクを冒したか。いろいろな角度で考える必要がある。例えばサイドについて見ても、片方は機能したけれど、もう片方は機能しなかった。右か左か、具体的には言わないが、機能しなかったサイドの選手は、経験のある選手だったので、非常に残念な誤算だった。

 理想のチームが出来上がったわけではないので、不完全なままで、しかもリスクを冒していくことが、時には必要となる。あらゆるものを望んでも、それがすべて手に入るわけではない。はっきりしているのは、優れたストッパータイプの選手が不足しているということだ。背の高い、しっかりしたボールさばきができるストッパー。すぐにプレーできなくても、控えでいつでも準備ができている、そういうストッパーはいるだろうか。皆さんの方がたくさん試合を見ているだろうから、聞いてみたいものだ。

 ストッパーというのは、時にリスクを冒すものだ。MFの鈴木や阿部を含めて、坪井、闘莉王、そういった選手が時にはミスを犯すわけだが、逆に攻撃にも参加してチャンスを作る。その際に大事なのは、誰がいないのかな? と味方のことを考えるのではなく、対戦相手のことを考える。今日のサウジには優れた選手がたくさんいた。その点では、向こうの方が優れていたのかもしれない。だから、選手たちに「負けたのは君たちのせいだ、走らなかったからだ」と言うつもりはない。それは不公平、フェアではない。サッカーというものは、学ぶことが多い。選手を代えて点が入るなら、私は代える。メンバー交代をしたら、次の試合に勝てるというのなら、そうするだろう。だが、誰をどう代えるべきか、それは分析しないと分からない。選手交代の時に(交代の選手が)タッチラインに立っている。誰が交代するのかなと見ていて、そこで集中力が切れる選手もいる。後から投入した選手が、疲れてベンチに引っ込んだ選手よりもひどいプレーをすることもある。

 もうひとつ大事なことに、第4の審判が選手交代の時間をかけすぎたという問題もある。残念ながら今日の試合では、選手交代を待っている間に失点してしまった。Jリーグでも5試合ほど、そういうシーンを見た記憶がある。特にジェフの負けた試合で。こういうことは、連鎖反応するものだろうか。だからといって、負けたことを正当化するつもりはない。ディテールを分析するということで、お話ししているだけだ。

 残り数分というところで、追いつくためにプレーを急いで、中盤で日本がキープしている。そして4人がディフェンスラインでボールを回している。闘莉王は相手ゴール前でヘディングで競る準備をしている。闘莉王の頭にボールを蹴れば、点が入るかもしれないという状況。そして審判が終了のホイッスルを吹くのを待っていたかのように、ディフェンスラインで4回も5回もパス回ししている。つまりは自己破壊をしてしまっている。しかし彼らは成人した、大人なのだ。

 また最初の話に戻るが、今日は負けて本当によかったのかもしれない。ただし、負けて痛みがないわけではない。私も胸が痛むが、選手の方がもっと悔しいだろう。

(プレスオフィサーが「そろそろバスも出てしまうので。選手も待っているので」)

 選手と一緒のバスには乗りたくない。歩いて帰ろうかな。

アジアカップ サウジアラビア代表戦直後 コメント

チャンスの数は日本の方が圧倒的に多かった。しかし、相手にはチャンスらしいチャンスもなかったのに得点を許した。日本はチャンスを得点に結び付けられなかったことが、試合の結果に結びついた。
 残念ながら結果には結びつかなかったが、ガッカリなことばかりではない。選手たちは困難なコンディションの中で頑張り、クオリティーを発揮してくれた。それを調整して美しいハーモニーにするところまで行っていない段階で試合をしなければならなかった。
 特に最初の15分間は、日本の若さが出た。プレッシャーを受けているわけでもないのにミスをして、パスを相手にプレゼントしてしまう。試合の中盤以降は頑張ったが、残念ながらFWの選手たちは仕事ができなかった。FWだけが悪いわけではないし、彼らは頑張ったが、結果にはつながらなかった。
 コンディションがもう少し良ければ、もっと走れただろうとは思う。日本のホームでやれば走れたとは思うが、深刻なのはそういうコンディションの問題ではなく、選手たちが考えないでプレーしたことだ。チャンスを作れる機会があるのに、前へボールを蹴った。それが何度も繰り返された。まるで子どものようなプレーをしたことを恥ずかしく思っている。
 私自身は満足していないが、サポーター、マスコミの皆さんには長く温かい目で見てもらいたい気持ちがある。編成されて新しいチームであり、大半の選手は若くワールドカップにも出場していない。サウジアラビアの半数の選手はワールドカップに出場、あるいはベンチ入りしている。われわれがブラジルのように最初から主導権を取るのは無理な話だ。問題はたくさんあるが日本の今後に期待してほしい。
(6日のイエメン戦に向けては)今日の試合を受けて選手のフィジカルコンディション、負傷者をチェックし、その上で微調整する。今日の試合から大きく変わることはないが、対策を考えていきたい。

サウジアラビア戦前日 オシム監督会見 AFCアジアカップ2007予選 第3戦

――ハードなスケジュールだが、コンディションについてどう考えるか?

 質問の意味は年間の日程についてか。それとも秋はいつごろ始まるかということか。間もなく秋になるが。決まったことを今さらあれこれ言っても仕方がないので、ポジティブな面を考えるようにしている。

――とはいえこの暑さ、そしてこの次の試合は高地ということで、選手がなかなか走れないのは仕方のないこととして、試合のやり方、もしくは練習のやり方を変える考えはあるのか?

 サウジアラビアの標高は高くないと思う。気温は日本よりも高いが、Jリーグでは最も暑い8月に試合をこなしてきている選手たちだ。暑さには適応できると考えている。こういう条件だからできる、できないということは言いたくない。

――アウエーの戦い方になるのか?

 特にアウエーということは意識していない。ただ、初招集や経験の浅い選手が多いので、国際試合の経験が足りない部分で心配はある。だが、これをチャンスととらえて、出場して経験を積んでもらいたい。これは一般論でサウジのことを言っているのではないが、ホームのほうがプレッシャーを感じ、逆にアウエーのほうが楽に戦えることもある。サウジを含めた中東のチームは、ホームが有利ということは私も知っている。しかしサッカーの試合は戦わなければ分からない。(試合が)始まれば分かるだろう。

――就任したころと比べて、ここでの練習は1つ1つの時間が短く感じられる。それは選手が理解するようになったからか、それともハードスケジュールゆえに時間を短くしているのか?

 今日は短かったとは思わないが、そう感じたのであれば、理由は明日が試合だからだろう。短い割にはインテンシブ(集中的)にできたと思う。だから最初のころと何かが変わったというわけではない。まだ選手は、お互いを理解し合おうとしている状況だ。

――サウジも日本もアジアカップで3度優勝している強豪同士だが、この試合の重要性をどう感じているか?

 人生もそうだが、サッカーというのはどれだけその試合に勝ちたいか、どれだけ良い成績を残したいか、それを感じる度合いによって、重要かそうでないかが決まってくると思う。私に関して言えば、あらゆる国際試合が大切だ。プロフェッショナルとしてそういう態度なので、サウジとはブラジルと対戦するような気持ちで戦うつもりだ。

――明日の試合では、選手のどんなところに注目してさい配を行うのか?

 どちらのチームについてか?

――日本のチームです

 基準なり物差しということか? それなら、はかりに掛ければすむ話だと思うが。もう一度質問の主旨を説明してほしい。

――当然、結果は大事だとは思うが、これから長く戦うにあたって、監督の戦術を表現できる選手を見極めるのか、それとも若い選手の成長を見極めるのか、監督の基準があるのであれば教えてほしい

 私自身に戦術というものはない。ただサッカーをするだけだ。つまり相手によって変わるもので、相手へのリスペクトを忘れずに臨むことが大切だ。理想は結果が伴い、内容も良いことだ。どちらか1つを選ぶということなら、われわれのチームが今、どれくらいの水準にあるのか考えるべきだと思う。

 残念ながらジャーナリストの皆さんは、最終的には勝ったか負けたかということを基準に考える。ここで「結果も内容も」という話をすると、将来内容の話は忘れられて「結果を追求した」、あるいは「しなかった」ということだけが記事として残る。結果は報道されるが、内容についてはどんなに良い内容であっても明後日には忘れられてしまう。もっともジャーナリストの中には、試合が終わった瞬間に内容を忘れる能力を持った方もいるようだが。

――明日の試合に向けて、サウジ代表にどんな印象を持っているか?(サウジアラビア人記者)

 サウジがアジアでどういう水準にあるのか、私がお話するのは失礼にあたる。はっきり言えることは、サウジは日本と同様、ワールドカップ(W杯)に何度も参加したチームであるという事実だけだ。

――サウジは長らく日本に勝っていない。なぜだと思うか?(サウジアラビア人記者)

 これまでの日本とサウジとの対戦成績について詳しくは知らない。なぜなら私は、それらの試合の当事者ではなかったからだ。過去は過去として、今後の両国の対戦が新しい歴史を刻むことを期待したいと思う。

 明日の試合について言えば、サウジが日本に勝てない理由はないと思う。それは日本についても同様だ。あらゆる国際試合での代表同士の試合は真剣勝負だし、ここ数年では各国の力の差は小さくなっている。私自身としては、サッカーは人生のようなものだと思っているが、勝敗や成功・失敗の差を分けるのは、ほんの小さなニュアンスである。小さな部分で成功したり失敗したりする。そして監督としては、対戦相手はどこであれ「ブラジルとやるんだ」と考えて全力で戦う。それが私のポリシーだ。

――監督ほど経験があるのなら、選手の様子を見ていい試合ができるかどうか分かると思う。明日はいい試合ができそうか?

 それはやってみないと分からない。選手たちは一生懸命にトレーニングしている。もしかしたら通常の能力以上にやってくれているのかもしれない。というのも、私も監督になって日が浅いし、新たに呼ばれた選手も多いので、お互いに相手が何を要求しているのか、どういう能力を持っているのか、もしかしたら見極め切れていないのかもしれない。

 試合についていえば、お互いアジアの中では強国であり、お互いに細かいところまで情報を持っていると思う。日本もサウジを研究しているし、向こうもおそらく研究しているだろう。そういうところをいかに使うことができるか、選手が役立てられるかというところで、試合は進んでいくのだと思う。

――今回の代表にはW杯出場選手が4人しかいないが(実際には5人)なぜか。それは彼らのレベルが気に入らないのか、それともけがをしているのか。それと、サウジの気温は日本の選手にどんな影響を与えると思うか?(サウジアラビア人記者)

 W杯に出場した選手の一部は引退を表明したり、もう代表ではプレーしないと宣言している。彼らは失望したのかもしれない。同時に日本は、4年後の南アフリカW杯の予選を突破して、本大会に出場しようとしている。だから4年後というスパンを考えて、選手の能力や年齢を加味して選考を行っている。

 私は代表監督だが、代表チームを私物化しているわけでは決してない。私の一存だけで、選手選考をしているのではないことを申し上げておきたい。私の考えは、世界のサッカーの進歩に追いついていくことが基本だ。日本代表には、走る能力があって、もっとアグレッシブな選手が必要だと考える。世界のサッカーは、そういう方向に進化しようとしている。美しさのために死んでもいいと考える人々が存在する余地は、現代のサッカーではますます小さくなっている。個人的には実に残念なことではあるが、今のサッカーはそういう方向になっている。人生もそうではないか。昔の旅行は歩いたり、汽車に乗ったり、実にのんびりしたものだった。今はみんな飛行機に乗る。うまく答えられただろうか?

 気温については、言葉にするよりも、ここにいる皆さんが汗だくになっていることでご理解いただけるだろう。座っているだけでも大変なのだから、走る選手のことも考えていただきたい。

――今日はDFを固定していたが、もともと招集メンバーにDFが足りない中、もしアクシデントが起こったらどう対処しようと考えているのか?

 どうしたらいいでしょう? 解決策があったら教えてほしい。

――例えば阿部や伊野波を使うという手も考えられるが、その伊野波は昨日けがをしてしまって心配しているのだが

 これまで何度か話していることだが、複数のポジションができる選手を使っていきたいという話と関連して、DFのことも考えていただきたい。もしそういう選手を使わないで試合に負けてしまうのであれば、それは進歩ではなく後退ということになる。私の考えでは、ディフェンスの選手、攻撃の選手という区別はない。その時の局面においてチーム全体の目標があって、それに向かって全員が力を合わせる。そういうことができるようなチームを作ろうと考えている。だから必要とあれば、巻をストッパーに、闘莉王をトップに置くこともあり得る。やってみたら面白いかもしれない。本当に、そういう場面が出てくるかもしれない。

アジア杯予選A組サウジアラビア戦練習後コメント

「時差の調整、現地に早くあわせるということのために練習をした(と通訳が説明)。」
-- 天気について?
「もし何か言ってこの(高温多湿)天候が変わるなら言いたいが、変わらないので言いたくない。与えられた条件の中でやるだけだ。」
-- 真夜中の練習はよくやったのですか?
「世界には今、昼間のところもある。ここが真夜中だからといって、世界中が真夜中というわけではないのだ(時差のことをさす)」

アジア杯予選A組サウジアラビア戦現地到着後コメント

-- 初アウェーですが?
「私は海外旅行は初めてではありません。それは選手ですか。私ですか? 大切なのは場所ではなく、どことやるかであり、相手はW杯に出た強豪国だということです。彼らはまたW杯に出ようと大志を持っていて、私たちをライバルと見ている。ジェッダを彼らが選んだのは偶然ではない。」
-- 出発の日に発表したことについて?
「新聞情報よりは早く、選手には伝えてあります。それほどドタバタしたことはない。」
-- サウジについて?
「あなたはどう思っているのですか?(質問者がホームで強い、と答えると)ならば、あなたが代表監督になるべきだ。今すぐ交代しましょう。このアジア予選を突破したらいろいろとお答えしたい。将来どうあるべきか先に言うと、可能性が低くなってしまうので」

【日本代表 対 イエメン代表】試合終了後のオシム監督(日本代表)記者会見コメント

――後半に羽生を投入した意図と彼への指示は?

 そんなに面白い問題だろうか?
 交代した羽生のプレーは、そんなに素晴らしいものでも最悪なものでもなく、極めて平凡だった。彼に指示したのはひとつだけ、サイドに開け、動けということ。詳しく本人には言わなかったが、彼が左右に動くことで、相手の中盤がサイドに開く。相手には小さくて速い選手がいたから、羽生が入ることによって、相手がマークにつく、そして真ん中や逆サイドにスペースが生まれる。そういう狙いで羽生にはそのような指示を出した。

――公式戦初勝利おめでとうございます

 選手におめでとうと言ってくれ。

――2ゴールともセットプレーだったが、そこに至るまでの過程が大事と言っていた。今日の試合では満足できるものだったか?

 つまりFKまでにどういうプレーがあったか、ということか。それは、審判がプレゼントしてくれたFKだったのか、それともわれわれがいいプレーをして相手がやむを得ずファウルしてFKを得たのか――後者のようなプレーをすることが大事だ。そこに至るまでのプレーはまずまずだと思うが、FKについては満足していない。キッカーが事前と違う蹴り方をしてしまったからだ。もっと力のある相手だったら、そのミスで取り返しのつかないことになっていた。FK、CK合わせて20回以上のチャンスがあったが、日本のように高い技術を持つチームであれば、最低5本に1本は決めていなければならない。つまり阿部や遠藤やアレックス(三都主)、闘莉王といった素晴らしいフリーキッカーがいるわけだから、もっと確実に決めてほしかった。代表ではセットプレーの練習をする時間が取れないので、彼らにはクラブに戻って十分に練習してほしいと思う。

■私は決して逃げることはしない

――最初の試合と比べて進歩があったか?

 それは私のことか、チームのことか?
 守備面については、いくつか改善が見られた。規律、組織、忍耐といった部分で前進があった。ただし攻撃面では、もっと改善の余地があると思う。もっとも、現在の強いチームというものは、守備がしっかりしている傾向があるから、ディフェンスをしっかりすることを基礎としている。だからその点では進歩がなかったわけではない。

 率直に申し上げて、今日の試合はスポーツジャーナリストである皆さんには不満の残る試合ではなかったかと心配していた。ところが、そういう内容の質問が出てこないことが不思議で仕方がない。私は決して逃げることはしない。(会社などから)聞けと言われた質問ではなく、皆さんが聞きたい質問をしてほしい。堂々巡りではなく、率直な質問をぶつけてほしい。日本のサッカーの何が一番面白いのか、それを書くことを皆さんは仕事にしているのではないのか?

――この合宿ではスピードの緩急をつける練習をしていたと思うが、前半はスピードが上がりきらないうちにクロスを入れてしまうようなケースが見られた。どう思ったか?

(質問には答えず)それでは皆さんに代わって、私が(今日の試合の)不満な点を申し上げる。私は不満だ。それはディフェンスでのボール回しが非常に遅かったことだ。しかも各駅停車並みだった。だから相手の陣形を崩すことはできなかったし、相手のディフェンスラインを左右に動かすこともできなかったし、スペースができない。ボールが相手陣内に到達すると、もう相手は戻ってきている。味方はそのときにフリーであっても、数的優位を作ることができない。それというのも、ディフェンスラインのボール回しが遅かったからだ。だから中盤で不利な状況が生まれた。それが一番の不満だ。

 以上が私の考えだが、皆さんの考えはどうか? まあ、目指すところはもっと高いわけだが、(イエメンより)もっと強いチームがもっと守備的な戦いを仕掛けてきたらどう対処すべきか。そのときに、もっと早いサイドチェンジやもっと早いリズムを作ることができなければ……まあ、言葉にするのは簡単だが、そこは技術やテクニックの問題であり、一晩で解決できるものではない。

――日本サッカーの長期間の強化について質問したい。日本は地理的に孤立しているし、選手は厳しい環境でプレーしていない。そうした中でどういう強化を考えているのか。もっと海外遠征をすべきだと思うか?

 最初の質問だが、地理的ではなくサッカー的に孤立しているのだと思う。これまでも何度も触れてきたが、地理的に遠いのはもちろんだが、強いチームとコンタクトするのが難しい。この夏、欧州の強豪チームがいくつか来日したが、彼らのプレーは疲れていたり、バケーション気分だったりして、欧州サッカーの現在を伝えるというには程遠いものだった。あまり言いたくないが、お金を払って見に来たファンには申し訳ないチームがあったことは事実だ。

 日本は豊かな国だから、ハングリー精神は育ちにくいのかもしれない。しかしそれなら、ヨーロッパで経済的に成功している国、例えば英国やドイツのサッカーが弱くないのはなぜか、ということも考えないといけない。つまり経済的ではない動機、サッカーを強くしたい、サッカーを普及させたいというモチベーションを作ることは可能だと思う。それは誇りであったり、名誉であったり、楽しみであったり、お金では計れないもの、そこに自身のエネルギーを投入したくなるような環境を作ることが大事だ。私自身はそれほど経済的に豊かでない国の出身だが、サッカー選手というのは非常にリッチな存在だった。そういう意味では、日本のサッカー選手に「もっとハングリー精神を持て」と批判することはできないのではないか?

――国内で意味のない親善試合をするよりも、もっと海外で試合をすべきだと思わないか、という質問のつもりだったのだが

 一般論としては、選手や単独クラブが海外に行って、強い相手と試合するのは強化につながると思う。しかし代表チームの場合、相手はそれなりのメンバーがそろったチームであるべきだ。一番手っ取り早いのは欧州に遠征することだろうが、向こうも欧州選手権やワールドカップ(W杯)予選などで過密日程だ。その中で日本国内でも日程のやりくりをして代表を集めるのも難しいのに、欧州のどこかのチームの日程が空いているところを探すのは、もっともっと難しいことだ。これは日本だけの問題でないが、代表にはそうした日程面の問題がある。それに加えて、コストの問題もある。各クラブとの折り合いをつけなければならないので、手間とお金がかかる。そういう問題をはらんでいることを理解してほしい。

 地理的に遠いことは、それほどの問題ではない。飛行機がもっと早く飛ぶようになれば解決できる話だ(笑)。例えば日本やオランダの大企業が、早い飛行機を作ってほしいということではなくて、W杯やアジアカップのような公式戦ではないかもしれないけれど、何カ国かが集まって試合ができるような大会のスポンサーになって、欧州やアジアで開催されるようになるというのも、アイデアとしてはあるだろう。親善試合はあくまで親善試合であり、何らかのタイトルが掛かった試合であれば、例えばトヨタやフィリップスのような大企業に賞金を出してもらって、そうしたタイトルを懸けた大会を主催できれば、モチベーションも上がっていくことだろう。地理的には遠いかもしれないが、お金の行き来は可能だと思う。

■美しさを追求して死ぬのは自由だが、サッカーはできない

――今日もスタメンは浦和の選手が半分くらいで、後半は千葉の選手を多く起用している。同じクラブの選手を起用するのは、コンビネーションでのメリットがあるかもしれないが、今後もその方針で行くのか?

 それは選手のプレーによる。今日のようなプレーが続くのであれば、ひとつのチームから選手を選ぶという方針を捨てなければならない。同じクラブでプレーしているから、コンビネーションが優れているという保証はないのだが。皆さんに見てほしい。私が少し前まで指導していたジェフの選手たちを。皆、素晴らしいプレーをしただろうか? もしそれでうまくいくのであれば、私は代表選手全員をジェフの選手にする。だが、浦和と千葉の選手には、正直なところを申し上げた方がいいだろう。それは、たまたま同じクラブにいたからではなく、代表にふさわしい力を持っていたからだ。だから代表の一員であるということを強調しておきたい。

 皆さんとは事前に「こういう記事を書いてください」とお願いすることはできないが、日本のサッカーをもっと強くするためには、もっと走る、もっとアグレッシブなチームをもっと(Jリーグで)増やさなければならない。そのためには、ある部分を犠牲にする必要がある。例えばそれは、プレーのエレガントを犠牲にしなければならない。エレガントであることと、効果的であることは両立しないことが多い。それが両立しているのは、多分バルセロナだけだろう。

(プレスオフィサーが「次で最後の質問に」と言って)以前にも申し上げたが、それを決めるのは私だ。

――あれだけエリア内でチャンスを得ながらシュートを決めきれない。これを是正するには、どのようにすればよいと思うか

 話が長くなるが、よろしいか?
 昨日の会見でも申し上げたが、ディフェンスラインを固めて、そこからスタートするのはたやすいことだが、得点を挙げるためのアイデアを作るのは難しいことだ。そういう話はしたと思う。それを実現させるために練習をしているが、トレーニングと試合とでは違う。プレッシャーも違うし、満員のお客さんも見ている。ここで自分がゴールを決めたら全員総立ちでスタンディングオベーションが起こるのではないかと想像する選手もいるかもしれない。そういうことを考えると、たいていは失敗するものだが。だからトレーニングの場でこういう状況を作れたら――マスコミもたくさんいて、テレビカメラもたくさん入って、きちんとした審判がいて、しかも対戦するイエメン代表と練習で試合して、それからまた同じイエメン代表と本番の際ができればいいのだが、もちろんそんなことは不可能だ。そんな答えでいいだろうか?

 こちらからひとつ、申し上げておきたい。今の話とはぜんぜん違う話だ。来月またイエメンと対戦するが、まったく違うチームになっている可能性がある。ギリシャ神話にも似た話があるが、自分の土地に再び踏み出したときに、エネルギーが大地から湧き上がって兵士の体を満たすということが、もしかしたらホームのイエメンに起こるかもしれない。だから今日の試合で勝っても、また次の試合で楽に勝てるとはまったく考えていない。今、こういう話を申し上げた方が、皆さんはがっかりしないだろう(笑)。

――エレガントと効率性は両立しないということだが、エレガントなプレーをする日本の選手についてはどう考えるか?

 意味は分かる。あまりにもエレガントなプレーヤーは難しいかもしれない。普通に美しいプレーヤーはどうか? 格好いいかもしれない。美しいプレーをして、その結果はどうなるか? その結果を考慮したい。美のために死を選ぶという選択はある。だが、死んだ者はサッカーができない。美しさを追求して死ぬのは自由だが、そうなるともうサッカーではない。現代サッカーのトレンドはそうではない。今はどんなに美しいプレーをしたかではなく、何勝したか、それが求められる。残念ながら。

オシム監督(日本代表)前日会見コメント

Q:明日の試合に向けて?
「コメントはありません。スポーツジャーナリストにふさわしいレベルにみなさんが達するまで質問を待ちたい。とにかく興味あることを聞いてください」

Q:なぜ今日、この場所(試合会場ではない)でトレーニングしたのか?
「ここですでにやっていたから、考える必要はないのではないか。明日のピッチコンディションについては、選手たちも何度もプレーしているし、大丈夫だと思う。特に千葉の選手は3日前にプレーしたばかり。後はピッチコンディションを崩したくないからプレーしないというのもある」

Q:イエメン戦については?
「まず相手について多くの情報を集めるのが大事ということは認識している。日本サッカー協会のルート以外にも個人的なルートで情報を集めた。彼らはよく走るしっかりしたチーム。アグレッシブでテクニックがあって、点差が開いても諦めない。粘り強く闘うチームだ。近代サッカーではボール扱いがうまいのは当たり前。イエメン代表に不注意なプレーをしたら取り返しのつかない結果になることもありえる。かつてのイエメン代表を知っている人から見れば、意外な結果を招くこともありえる。カリスマはいないけど、警戒を擁するチームだ。日本代表はここ最近でバーレーン代表やオマーン代表と2度、3度対戦して接戦をしているが、イエメン代表はそのチームとそれほど変わらないチームだ」

Q:初の公式戦を前にプレッシャーを感じているか?大勝しなければいけないと思っているのか?
「私はプレーしないから、プレッシャーはない。選手が感じているのではないか。もしかするとジャーナリストのみなさんが感じているのかもしれない。結果の予想、心構えについては礼儀を失するのでお答えしません。もし質問された方が日本が当然勝つだろう、どのくらいの点差で勝つのかと思うのなら、相手に失礼だ。向こうが勝つ可能性もある。全てが決まるのはスタジアムのピッチの上だ」

Q:今回、2006W杯ドイツ大会のキャプテンだった宮本が招集されていないが、今後彼は呼ばないのか?
「宮本が日本サッカー界で最も優れた選手であることは知っている。しかしG大阪の監督との関係がある。私との関係ではなく、西野監督とのことだ。つまり、彼はいつもJリーグの試合に出ているわけではない。そういう問題はある。プレーヤーとしては大変高く評価しているのは間違いない。今年の日本サッカー界では優れている選手だ。しかし2年後、4年後を考慮する必要もある。でもチャンスはあると思いますよ」

Q:イエメン戦は上背がないが、セットプレーがアドバンテージだと考えているか?
「日本には相手の平均身長より低い人が6人ほどいる。だから圧倒的身長差があれば有利だが、果たして明日はどうでしょう。セットプレーも大事だが、セットプレーに至るまでのしっかりしたプレーが必要。いい場所でのセットプレーが大事なので、それを得るための流れの中のプレーを重視している」

Q:最後の紅白戦は実践的な練習ではなかったのか?
「あれは選手も疲れていたし、レクリエーションだった。何度も話していささかうんざりしているが、私は選手にどんなプレーをしろとか、どこに動けとか、指示を出してはいない。完全な自由を与えている。ただし守るべき原則はある。どこでどんなプレーをするのか、選手が考えなければいけない」

Q:練習前後に三都主と遠藤と話していたが?
「もっと走れと言った」

Q:数的優位の状況を作る練習が多くあったが、日本人の瞬間的判断力は他の国に比べて低いのか?
「問題は日本人選手が速く判断することではない。早く考えるということが、一般社会で許されるのか? そのことを私から質問していいですか?」
(質問者が「日本では誰かから教えてもらって育つことが多い」と応えると)「サッカーというのはそういうことと違う活動だ。もし選手がピッチの上で監督の指示を待っていたら、試合に負けてしまう。私は監督が何を言うか待っている選手はいらない。試合中にちょっと待ってくれとか、タイムアウトを取ったりとか、ピンチキッカーとかランナーが出てきたり、そうやって局面を変えることがサッカーではできない。選手には必要な情報をなるべく多く与えてはいる。選手はプレーしながら考えないといけない。サッカーはクリエイティブなゲーム。考えられないアイディアはない。そんな選手はサッカーには向いていない」

トリニダード・トバゴ戦後 オシム監督会見

――ピッチコンディションがよくなかったが、試合のプランに狂いはあったか

 大変いい質問だが、最初の質問と関連していると思う。この試合には条件上の制約があった。私は魔法使いではないので、これほど短い時間でチームのコンビネーションを練り上げることはできない。そのほかにも、グラウンドのコンディションが悪いとか、選ぶ選手が限られていたこと、ほかにも大会が平行して行われていたわけだが、そういった条件があって、グラウンドコンディションもそのうちのひとつだった。コンビネーションの問題で言えば、短期間でそれを解消する最も簡単な方法ということで、同じJリーグのチームからグループで選手を選んだということだ。

――今日2ゴールした三都主はMFに適正があると思うか?

 今日は彼だけがヒーローではない。英雄とは、すでに墓の中にいる偉大な人物のことを指す。三都主はまだ生きているではないか。この英雄の定義というのは私なりのものだが、ある試合で得点を挙げてヒーローになり、ある試合で失敗をしてけなされるのは、選手にとって気持ちのいいものではないだろう。私にとって重要なのは、代表に選ばれていることを(選手に)自覚してほしいということ。その一員であることに誇りを持つことが大事だ。

――自分に与えられた日本代表のミッションに希望は持てたか。難しいと感じたか

 私の未来にどれだけ時間が残されているかによる。つまり、いつまで代表監督を任せてもらえるのか、あるいは誰がそれを決めるのかが大事だということ。まあ、今日明日に代表監督でなくなることはないと思うが。

――親善試合でこれだけ多くのファンが来たということに責任を感じたといったが、あなたの責任は心地よいものか、重荷なのか。また、うれしい誤算とは具体的に何か?

 今日の試合に限らず、すべての試合は私にとって重みがある。来日したときから私は監督として責任を自覚していた。ほかの日本人監督も責任感が強い方ばかりだ。責任感がなければ日本社会ではやっていけないことを私は知っている。
 うれしい誤算とは、さっきも言ったとおりスタジアムが満員だったこと。満員だったということの重要性をご理解いただけない方が、もしこの中にいらっしゃるなら(この仕事を)お辞めになった方がいいと思う。

トリニダード・トバゴ戦前日 オシム監督会見

 今日はコメントがあるので、この場にやって来た。明日の試合のこと以外に、何を話せと言うのだろうか。サッカーが話題だと聞いて、ここに来たのだ。(広報の)彼はマスコミ関係者のようだ(笑)。では、まだ私の考えを知らないマスコミ関係者の質問を受けましょう。

――青山(直晃)の追加招集で総勢19人となりました。新しいメンバーが中心となったわけですが、試合にあたっての準備と手ごたえは?

 私のイメージでは19人ではなかったと思うが、19人だっただろうか?(「けが人を入れて19人です」という記者の答えに)彼らはプレーできますか? けがをしている人はプレーできない。フィールドプレーヤーは15人、GKは2人。今野は負傷していながらもチームには帯同しているが、それは彼のチーム(FC東京)が(韓国遠征で)日本にいなかったからだ。青山については、飛行機が無事に日本に到着することを祈っている。彼を入れても18人だ。青山は昨日の試合(U-21代表の対中国戦)に出ているし、すぐに使うわけにはいかない。
 トレーニング期間が3日しかないことについては、特に申し上げることはない。「3日しかないですが」という質問をされれば、「そうなんです」と答えるしかない。質問の中に、すでに答えが含まれている状況だ。

――就任会見の時、「古い井戸に水は残っている」と言っていましたが、結果的には新しい井戸を数多く掘っています。その理由は?

 考えは変わっていないし、新しい井戸を掘ったつもりもない。今回の選手はリーグ戦やほかの大会で試された人ばかりだ。招集できないのはA3に出ている選手、ヨーロッパにいる選手。松井(大輔)はヨーロッパにいる選手の中で唯一のレギュラーだが、(今回の)ワールドカップ(W杯)には呼ばれていなかった。彼を含めてチームを考えている。質問は何でしたっけ?(笑)

――就任会見のコメントでは、メンバーが(ジーコ監督のときと)大幅に変化しないというように理解していましたが

 私が就任する前に日本代表が最後に行った試合、つまりW杯のブラジル戦と同じメンバーで戦えば、大きな変化ではないということだろうか? そうであれば私も楽だ。誤解されているようだが、私は井戸を掘らないとは言っていない。古い井戸ではない選手も試してみたいと、同じ日の会見で言ったことをお忘れではないか? 自分自身の発言に縛られるのは嫌いだ。だから、このようなメンバーになっているのだ。こうした話を通して、私は記者の皆さんといい関係を築いていると思っている。スタートとしてはまずまずではないだろうか?

■インテリジェンスを築いていけるかどうかが問題

――(トリニダード・トバゴ戦の)スタメンは考えていないと昨日話されていましたが、基本のシステムはどうなるのでしょうか

 どういうシステムでプレーするかは、誰が出るかで決まる。なぜ、スタメンが誰かを聞かないのですか? それでは話が堂々巡りになってしまう。(「ではスタメンを教えてください」との問いに)まだ、私も分からない。一番大事なことだが、相手がどのような作戦で来るかによる。それに、あらかじめスタメンを発表するのは、相手に失礼に当たる。大体は決まっているが、相手へのリスペクトを示すためにも、(ここで)スタメンは発表しない。彼ら(トリニダード・トバゴ)は攻撃力に優れているから、こちらの守備をどうするかをまず考えている。あとは攻撃の選手に誰を選んで、いかに相手を困らせてやろうかということ。これで答えになっていますか?

――今後も、相手によってシステムが変わることが考えられますか?

 システムそのものが変わるのかどうかより、チームとしてのインテリジェンス、賢い考えを築いていけるかどうかが問題だ。これができれば、相手に脅威を抱かせることができる。そういうことができるチームのインテリジェンスを作りたい。
 付け加えになるが、日本がものすごく強いチームなら、ブラジル戦と同じメンバーとシステムで、トリニダード・トバゴ相手に横綱相撲ができるはずだ。しかし、(実際は)そうではない。それができれば世界チャンピオンになれる。真の世界チャンピオンならシステムなど変更せずに、自分たちのやりたいことをやればいい。

――チームのスタートとして、選手にまず何を教えたいですか?

 私から日本に何かを与えようという気持ちはない。日本の方が、私より進歩しているのだから。

――昨日の試合(U-21中国対U-21日本)に出ていて、即座に使うつもりのない青山を招集した意味と、彼への期待は?

「どうして今野を呼んだのか?」という質問はしないのだろうか? 今野も同じだ。けがでプレーできなくとも、(彼も)最後まで一緒にいる。青山は中国からの飛行機に乗るか、乗っている間に招集された。答えになっているかどうか分からないが、五輪世代の中から選手を呼べば、残りの選手たちに対しても「自分たちにもチャンスがある」とメッセージを伝えることになる。そういう意味も含まれている。

――明日の試合では何ができたら成功で、何ができなかったら失敗なのでしょうか。また、その価値基準は?

 勝つことはサッカーの目的で、それを目指すのは当然のこと。だが同時に、内容の分析も大切だ。しばしば勝つことと成功が同じように扱われるが、その結果として違った方向に進んでしまうこともある。勝つと、チームの中で直すべき点が見えなくなってしまう。逆に内容がよくて負けた場合などは、負けた方が修正点を見つけやすいこともある。日本の皆さんに説明するのは簡単ではないが、敗北から最も学んでいるのは日本だと世界の人たちは考えている。ちょっと精神論に入ってしまったが(笑)、これは日本の経済などについての話だ。サッカーはもっと難しい。今、話したのは経済や社会の復興の話であり、サッカーについて言うならば、日本はそこから学ぶべきことがたくさんある。歴史、戦争、原爆……。その上で、日本は先進国の仲間入りをした。サッカーでもなぜ、強国と肩を並べることができないのか。それを実現させることが私の願いだ。その考えが気に入らなければ、ごめんなさい(と言うしかない)。

■敗北は最良の教師である

――インテリジェンスのあるチームを作りたいと話されましたが、選手の意識付けには時間がかかりますか?

 短い時間では難しい。個人の知識とは違う。基礎は個人個人のインテリジェンスだが、サッカーは11対11のスポーツだ。個人だけではなく、集団的なインテリジェンスが必要になる。もし、1人だけインテリジェンスのない選手が混じっていたら、チーム全員が被害を被ることになる。

――明日のゲームは試合内容にこだわるということですか? それとA3組(G大阪、ジェフ千葉)から明日になって追加招集する気持ちはありますか?

 サッカーは哲学の授業とは違う。今はサッカーについて話しているのだ。インテリジェンスとはサッカーについてのもの。哲学の授業をこれからやろうとしているわけではない。サッカーは単純なものだが、サッカーの試合は難しいものになりつつある。選手に対してはプレーだけでなく、知性、立ち居振る舞いといったことにまで、要求レベルが高くなっている。勝つことには、さまざまなことが含まれている。ただ(結果だけで)勝ってしまえば、そういうことが見えない。敗北は最良の教師である。だが、「だから負けたい」とは私は言えない。サッカーではすべてが可能だ。明日になれば、何を学べたか、学べなかったかというひとつの結論が出る。それは私が考え出したことではなく、一般的なこと。皆さんもそう考えていると理解している。この前のW杯は終わったが、そこから何を学んだかが大事なことだ。
 A3については、その質問は挑発だ(笑)。

――キャプテンは誰か、国民の関心が集まっています

 どうして気になるのだろうか? 私もキャプテンは大事だと思っている。だが、スポンサーの力やマスコミによってキャプテンが選ばれるわけではない。スポンサーやマスコミに都合のいい人がキャプテンになることを希望していることは多いが、時にその見栄えのいいキャプテンは役に立たないこともある。
 今は、この人がキャプテンだろう、という雰囲気が出てくることを期待している。キャプテンとは育てられるものではなく、持って生まれた特徴のある人。キャプテンとして生まれる、そういう人がキャプテンだ。指導者に関してもそうで、指導者になるための学校はない。指導者に生まれつくこと、それが指導者だ。生まれついた才能があるかどうか。もちろん、民主主義も尊重しようと思っているが。

 もう十分話はしたが、私はメディアの皆さんと意見のキャッチボールのできる雰囲気を作ろうと思っている。
 このチームは若いし、(今回の)対戦相手はうまい。しかもグラウンド状態は、お客さんにお金を払わせるのに値しない状態だ。明日はエレガントな試合にはならないだろう。

【KIRIN WORLD CHALLENGE キリンチャレンジカップ2006】8/7練習後のオシム監督(日本代表)コメント

●オシム監督(日本代表)
「こちらから申し上げることはありません。2~3質問を受けます」

Q:激しい指示を送っていましたが、何を言っていたのですか?
「通訳にもっとちゃんと訳せと言った。通訳が間違ってばかりで練習が進まないじゃないかと話していた(笑)」

Q:選手が戸惑っていたように見えるが? 千葉でもこういう段階はあったと思うが?
「そのうち日本語をマスターして直接指示を出せるようにしたい」

Q:代表はクラブより時間がないが?
「時間があるかないかは私が判断します」

Q:最後のゲームで3点しか入らなくて、ゴールへの決定力を欠いているように思われたが?
「シュート練習をして100点入ればいいと? そういう意味なのか? それに何の意味があるのか? こういう場で今日は守備がよかったとか、そういうコメントを聞きたい。3点取ったら日本が勝つことになる。単に3ゴールという言い方はできない。DFをほめるべきかもしれない。監督はいろんな人がいるし、それぞれ独自のやり方をする。トレーニングのやり方もいろいろある」

Q:止めて指示を多く出していたが?
「誰かがミスをしたら、それはミスだと教えてあげるためだ。練習は試合と違って何回も止められる。そのチャンスを私は生かした。試合では止められないから、修正しただけだ。じゃ、終わります」

【KIRIN WORLD CHALLENGE キリンチャレンジカップ2006】8/6練習後のオシム監督(日本代表)コメント

●オシム監督(日本代表)
「何をお話しましょうか(笑)?」

Q:初日の感想はどんな感じですか?
「別に。初日で感想を持つようなチームだったら、大したチームじゃない。第一印象だけで判断するのと見誤ることが多い。時間をかけて考えていく」

Q:今日の練習の狙いは何でしょう?
「このようなカメラの前では話せない。ホテルまで来てくれれば、ひょっとすると話すかもしれないが(苦笑)」

Q:試合前の指示はどんなことをしたんですか?
「軍隊ではないので、命令を出すことを試合前にはしていない。とりわけ指示も出さない。個人でアピールするという考えは捨てろ、普段通りの力を出せとだけ伝えた」

Q:フォーメーションをコロコロと変えましたが、トリニダード・トバゴ戦のスタメンは決まったのですか?
「みなさんはがっかりするかもしれないが、スタメンは決めていないし、決めるつもりもない。今日はたくさんのフォーメーションを試したが、相手がどういう戦術で来るのか、攻めてくるのか守ってくるのかがわからない。それを把握してから対応しなければいけない。トリニダード・トバゴは監督がオランダ人。オランダ型の攻撃サッカーをするのが普通だが、この前のワールドカップでは守備的にきていた。今回はレギュラーの半分しか来ないし、どっちでくるのか。オランダ型のサッカーか、それとも守備的なサッカーか。どっちでも対応できるように考える力、対応できる能力を身につけることが今日からのテーマだ」

Q:日本代表監督として初めてジャージを来た今の気持ちはどんな感じですか?
「個人的な感想はみなさんにお話するようなことではない。ここで話すと未来永劫そのことを話されてしまう。私が気分のいい時にお話するかもしれないが」

Q:5人を追加した意図を教えてください。
「トリニダード・トバゴに日本には18人以上の選手がいることを伝えるためだ。それも優れた18人だ。この5人というのは、13人最初に発表して、その後追加されても怒らない人たちだ」

トリニダード・トバゴ戦メンバー発表 オシム監督会見

KIRIN WORLD CHALLENGE キリンチャレンジカップ 2006
2006年08月04日
田嶋 オシム監督になって初めての試合、キリンチャレンジカップ2006、対トリニダード・トバゴ戦の記者会見に、多くの方々にお集まりいただきましてありがとうございます。われわれは本当に強化ということを考えて試合を組んでおります。ただ、オシムさんの最初の試合で、A3とスケジュールが一緒になってしまって、協会としてはサッカー界に対して本当に申し訳なく思っています。この試合は、16日に行われるイエメンとのアジアカップ予選に向けての強化試合でもあります。そこでトリニダード・トバゴという、今回のワールドカップ(W杯)でもスウェーデンやイングランドといった強豪相手に、非常にいい試合をしたチームを迎えることは、本当にうれしいことです。ぜひ、いい試合ができるように、そして最初のスタートとして、ファンの皆さんにいい試合をお見せしたいと思います。

オシム まずは皆さんに申し上げたいことがある。最初の(就任)会見のときに、私の発言が違うように解釈されたと聞いている。私は(今の日本代表を)車に例えて全員で押さなければならないと強調したわけだが、さまざまな方向で押すのではなくて、ひとつの方向にみんなの力で押すのだと、そういう例え話をしたつもりだった。

田嶋 (メンバー発表の)コピーがまだ間に合いませんで、私に読んでほしいということですので、発表させていただきます。
 GK:川口能活(磐田)、山岸範宏(浦和)。DF:三都主アレサンドロ、坪井慶介、田中マルクス闘莉王(いずれも浦和)、駒野友一(広島)。MF:田中隼磨(横浜FM)、今野泰幸(FC東京)、小林大悟(大宮)、長谷部誠(浦和)。FW:我那覇和樹(川崎)、佐藤寿人(広島)、田中達也(浦和)。 以上13名です。

オシム こちらから説明することはない。質問があれば、どうぞ。

――13名という人数の少なさの理由、それから代表選考で重視した点について教えてください

オシム 13人でも試合はできる。なぜ、この13人を信用できないのか。13人とも90分間走れる選手だと思う。というのは冗談だ(会場、笑)。
 初めて日本の代表監督をするにあたり、代表の強化日程に影響を与えることはできない。また、各クラブの活動についても、A3のように平行して行われている大会についても同様だ。しかしながら各クラブの日程(鹿島の上海遠征など)、そして代表とA3の日程が重なってしまうという事態になってしまった。大会、代表、遠征と、多くのチームの事情が複雑に絡み合ってしまっている。
 そうした試合に関係しているチームほど、代表に選ばれる可能性のある選手を多く抱えているというのが実情だ。だから、このリストはまだ完全に閉じられたものではない。現在、大会や遠征などで代表に招集できない選手の中から、代表に新たに呼ばれる可能性もある。ジャーナリストの皆さんは、どのチームが今、大会に参加しているのか、遠征しているのか、ご存じだろう。どの選手が追加招集されるかについて、具体的な名前は差し控えさせていただく。現在彼らは、別の試合を戦っているわけだから。
 代表チームと(他の日程が)バッティングしてしまったので、こういうことになってしまった。今後は、こういうことがないように願いたいものだ。もっとも、ジャーナリストの皆さん、ファンの皆さんは、誰が追加招集されるかという楽しみを、代表監督になったつもりで、その気分を味わってもらいたい。

――キャプテンは誰ですか

オシム 全員がそろった段階で決める。あまり大事なことだとは思っていない。

■「前回の会見で述べた方針に対する自分なりの回答がこのメンバーだ」

――田嶋さんに質問です。13人と聞いたときにどう考えたかということ。それから監督から「今後はこういうことはないように」とありましたが、これは協会に向けられた言葉だと思います。これは(メンバー発表が)3日延びて、なおかつ選手を絞り切れなかったと思うのですが、それに対して協会としてどう対処するのでしょうか

田嶋 まずスケジュールについてですが、これについてはシーズンの初めに、どちらを優先させるかということで、協会、Jリーグ、各クラブと話を進めてきました。シーズンの途中で、オシムさんに(代表監督を)代わっていただいたことで、非常にご迷惑をおかけしたと思っていますし、来年オシムさんとスケジュールを考えるときには、こういうことをしないようにしたいと考えています。
また、メンバーの発表が遅れてしまったことについては、さまざまなスタッフと長時間かけてオシムさんと話をしてきたわけです。そういった意味で、今オシムさんからお話があったように、(今後、選手を)プラスするということを含めての13名ですから、これからのけがなども含めて(追加招集も考慮して)選んでいるととらえています。
 会見の日程が延びたことについては申し訳なかったと思っていますが、われわれとしては選手を決めるのは監督であって、なるべく監督が十分に自信を持って(選手選考が)できるように、時間を取りました。

――オシム監督がやりたいように、協会としてやったということでしょうか

田嶋 日程については、オシム監督のやりたいようにはできないわけですから、それについては前もってわれわれで決めて、申し訳なかったと思っています。

――オシム監督に質問ですが、今回はフレッシュなメンバーが多いですが、オシムさんが最初の会見でおっしゃった「日本らしいサッカー」「日本の良さを生かしたサッカー」というのは、具体的にどういうサッカーをやりたいとお考えなのでしょうか

オシム 質問の意味がよく分からない。何を聞きたいのですか?
 私が、前回の会見で話したことを実現するために必要な選手を選んだ。何を具体的に知りたいのか教えてくれませんか? どういう選手を選ぶか、どういう試合をするか、というところで答えを出すつもりだ。ただ前回の会見で述べた方針に対する、自分なりの回答というのが、このメンバーだ。
 ジーコさんの時代に呼ばれたかどうかということは、それほど重視していない。さまざまな試合の中で、私自身が観察して、よい選手だと確認できた選手を選んでいる。ジーコさんは、W杯の時点での最高のメンバーを選んで、ドイツに連れて行ったのだと思う。それをまったく無視することはできないが、それ以外の選手を試してみるということはできる。

――追加メンバーは何人を考えていますか? トレーニングはどういう形で考えていますか

オシム 本来ならばもっと早い時期にメンバーを発表して、もっと早くトレーニングを開始したいと思っていた。最初は6日の夜に発表する予定だったが、それは遅いと思った。新しいメンバーを含むチームになるわけだから、本格的な試合に臨む前に、丸一日の練習と、力の劣る相手との練習試合など、時間をかけて(チームを)組み立てる必要がある。だから、今回も練習試合を予定している。
 この13人は、一緒にディナーをするために呼んだのではなく、試合をするために呼んだ。練習試合は非常に大きな意味がある。サッカーはお互いに知り合いになることも大変大事なことだ。サッカーは11個のピースを組み立てて、出来上がりというものではない。
 だから、13人という最低限、練習試合ができるメンバーを発表した。
 この後、追加の発表をするが、おそらく現在別の大会や遠征があって、代表の活動ができないクラブの選手たちのコンディションやけがをしていないかを考慮して、選ぶことになる。全部のクラブから選ぶことができなくて残念だ。

 一般論だが、7日間の間隔を空けてイエメンと試合をすることはかなり無理がある。つまり、トリニダード・トバゴ戦とイエメン戦の間にJリーグの公式戦の日程が入っている。
 私の考えでは、代表チームというのは、試合ごとにころころメンバーを変えるものではない。だから、トリニダード・トバゴ戦のメンバーもイエメン戦で戦うメンバーも基本的に同じにしたい。もちろん、失病やコンディションの悪化などが起こった場合は別だが。

 だから、呼ばれた選手もある程度安心してプレーができる。13人の中に入ったのは偶然ではないと思ってもらっていい。次もまた呼ばれるだろう。
(追加人数に関しては)全体で20人くらいになるだろう。2試合をそのメンバーで戦う。
 さらに負傷者が出た場合は、追加の追加もあり得る。大事なのは、一緒に集まることだ。

――選んだ選手の具体的にどこをいいと思ったのでしょうか

オシム ここで選手の分析をしろとおっしゃるんですか?

――冒頭で、90分間走れる選手たちだとおっしゃった後に、「それは冗談だ」とおっしゃったので、どこに基準を置いて選ばれたのかをお聞きしたいのです

オシム 話をすることはできるが、非常に長くなる。第一の基準は全員が日本人であることだ(笑)。これはもう、絶対的な条件だ。それだけだ。

■「経験がないからといって招集しなければ、いつまでたっても経験は得られない」

――全体的に経験のない選手が多いですが、そういう選手を集めたのでしょうか

オシム 若い選手だけでもないし、そんなに若過ぎる選手はいない。サッカー選手として普通の年齢だ。
 経験で言えば、誰でも最初は経験がない。経験がないからといって招集しないのであれば、いつまでたっても経験は得られない。経験というのは、試合をする中で得られるもの。試合に出なければ、経験は得られない。

――監督はトリニダード・トバゴ戦を望んでいないように感じるのですが、その中でこの試合の位置づけは

オシム 日程は私が監督になる前に決まっていたわけだが、トリニダード・トバゴがどういう選手で、どういう試合をするかという、相手の監督の権限に私が干渉することはできない。
 相手は強敵で、生易しい試合ではない。多くの日本人はトリニダード・トバゴがどこにあるか知らないだろう。国がどこにあるかは別にして、選手の多数はイングランドでプレーしている。W杯にも出場している。だから、トリニダード・トバゴは観光に日本に来るわけではないし、あらかじめ予想をたてて簡単に対応できる相手でもない。

 トリニダード・トバゴは(W杯で)イングランド、スウェーデン、パラグアイの3カ国を相手に非常に良い試合をした。ひょっとすると、日本が入っていたグループよりも、強いグループだったと思う。それを戦った選手が来るわけだから、簡単な内容、簡単に勝てる試合になるとは思っていない。
 もしトリニダード・トバゴを相手に、日本が簡単に勝てるという雰囲気ができているなら、それは取り消していただきたい。この場に座って皆さんと話しているわけだが、トリニダード・トバゴに勝った後に皆さんがどう思うかを聞いてみたい。

 客観的にどういう相手かを考えることが大事だ。日本が勝つのは確実で、どう勝つのが問題だと考えている方がいるなら、それは違う。接戦になると思うが、もし日本が1-0なり最小得点差で勝った場合、それは偶然だったということになるが、勝つのが当然という雰囲気があったならば、誰も満足しないだろう。2-0で勝って当然という雰囲気があるならそれは違う。
 では、もし負けた場合はどうなるか? 「あの監督はダメだ」という意見がすぐに出る。トリニダード・トバゴに限らず、W杯に出るようなチームの中には楽に勝てる相手は1カ国もない。
 もし、私に(マッチメークの)権限が与えられていたならば、トリニダード・トバゴを相手には選ばなかった。強い相手とやるということであれば、もう1回ブラジルとやる。
 皆さん、本気にしました?(笑)

ん~、予想よりも激しい人選。協会に対する姿勢がはっきり見れるし、対戦相手をなめてる日本人にも警笛を鳴らしてる。サッカー担当の記者が少なかったのかもしれないけどいつもなら軽いジャブで済んでるのをのっけからストレート。メンバー発表が延びたくらいでガタガタオシム批判をしてる馬鹿をさりげなく攻撃。オシムに対する記事を見ればその記者がいかにJリーグを見てないか良く分かる。オシムを叩いておけば雑誌が売れて儲かるんだろうけど。

情熱大陸「独占告白!イビチャ・オシム監督愛と平和とサッカーと」

唯一辛そうに話してたのが自国に起きた紛争。
「もう戦争は繰り返して欲しくない。
 でも馬鹿な人間がいるからそれも分からない。」
平和が当たり前のように思ってる俺はオシム監督より人生の価値は見出せてないと思う。今出来る事を精一杯やる事の重要性は明日が繰るかどうか分からない世界で生きてきたオシム監督には本当に重要な事なんだと思う。日本人は幸せで子供な民族だと言われている。自分も含めてアメリカにいた頃より自分がそれに甘えているのを感じる。。。

オシム監督は「もし監督になってなかったら?」と聞かれて「数学の教師になりたかった。」と答えてた。数学というと一見冷たそうな感じがするけどこの人は人間が好きなんだなと。一般社会だとこうして正しい事を正しいと言う事は難しい。これに政治が絡んでくる。出来ない人間は出来る人間を妬む。常に結果が求められるから監督になって良かったとは言えないと言ってるけど、俺ははっきりと結果だけを見られるサッカーの監督になって良かったと思う。その中で美しさを求めるのは彼の美徳だし、人間らしさだと思う。

「サッカーが結果だけを求めるようになってしまったら、
 いったいそこに何が残るのかと。」

オシムと神の子始動

「川渕、お前ホントにぶっとばすぞ!」的なポロリ発言から始まったけど、とにかく就任が決定して良かった!虚しさだけが残った2006年ワールドカップドイツ大会。中田英寿の引退。でも日本のサッカーは続いていくわけで、なんだかんだ言いながらもそれを見守ってしまう。尊敬するオシム監督が起こすであろう「カミカゼ」のオシムスコ日本代表選手たち。決して日本代表が強くなるわけではないだろうけど、負けた事を悔しく思い、でも選手達に「頑張った」と言えるような、そんな大会にして欲しいと思う。オシム監督が病気にならない事を祈って。

 ※イビチャ・オシム監督 就任記者会見 コメント

「日本サッカー協会の信頼を受けてとても嬉しいし、光栄に思っています。これはある意味結婚をしたようなものです、結婚すると最初はうまく行くと思いますが、その後はどうなるか分かりません。結婚はやはり大変多くの人の力が必要です。川淵キャプテン、反町監督と3人だけでやっているのではないですし、ここにいる人たちの助けも必要になってくると思います。

代表チームを車に例えると、全員がこの車を後押ししなければならないと思います。現在の日本代表の状況を考えますと、車が一時的に止まっているような気がします。だから、すぐに全員で車を押さなくてはなりません。

一番最初にやらなければならないことは、現在の日本代表チームを日本化させることです。日本代表が、本来持っている力を引き出すことが必要だと思います。そして初心に帰ることが大切だと思います。そうすれば日本人選手が本来持っているクオリティ、力を出してくれるんじゃないかと思います。ですから、初心に帰っていただいて『日本らしいサッカーをしよう』ということです」

Q:選手選出の基準は?

「世界の基準、そして日本の基準があると思います。日本の基準は世界の基準同様高いと思いますが、大事なことはこの基準を満たすよりも、現在のサッカーにおける動きを集中して見ることです。それから、他者の真似をしない方がいいと思います。そして、明日のこと、これから先のことを考える必要があると思います」

Q:2010年までによりいい成績を残すために、具体的にどんな風に変えていくつもりですか?

「以前にもいいましたが、ドイツワールドカップの成績がガッカリするような成績だと考えてはいけません。私だけではなく、川淵キャプテン、反町監督とも一緒にこれからいろいろ考える予定ですが、申し上げたいのは日本は技術、経済などでは先進国ですが、色々な分野でトップでも、サッカーでもそうだというのは結論が早いと思います。どんな成績になるかは私の出来にもよりますが、それ以上に選手のプレーにかかってくるのではないかと思います。一つ言える事は、サッカーはこれからも一層早い競技になること、さらに発達するものだといえるのではないかと思います。そして、常に進化するサッカーにこちらが追いつかなければならないということです。このことは非常に良く知られていると思います」

Q:先ほど日本らしいサッカーをやりたいとおっしゃったが、前のチームとどのあたりを変えていくのか?

「具体的に述べますと、近い将来に身長の高い選手を見つけることです。皆さんご存知のようにこれが一つの問題です。これが決定的な問題だとは限りませんが・・・まぁ、身長が高い選手が見つかったとしても、その選手が日本人らしいサッカーをするとは限りません。私が考えているのは、日本選手の持ち味をいかに生かすことができるかということです。他のチームにないものも日本人は持っています。それを生かすことが大事だと思います。

それが何かというと、素晴らしい敏捷性、そしていい意味でのアグレッシブさ、そして個々人のいい技術です。ただこの個々人のいい技術がまだチームのために働いていない気がします。他にも考えるべき点があります。例えば走りのスピードと展開のスピードです。今まで日本はスピードのあるチームではないと思います。もっとスピードにのったプレーができると思います。話が長くならないように今日はこれくらいにしておきましょう」

Q:現在代表チームがあまり活動時間が取れない中で、どのように強化をされるおつもりですか?

「皆さんスケジュールをご存知だと思いますが、非常に過密なスケジュールといえます。近いうちに2試合がありますが、スケジュールを変えることはもはやできませんので、こういう過密なスケジュールの中で自分達に何ができるかということを考えなければいけません。考える中で2つの方法が考えられます。一つはラジカルな変化、何かを根本的にかえるということです。このことは望ましくないと思います。非常に多くの方がこのやり方を期待していると思うのですが・・・もう一つは今までの中心選手をそのまま残すというやり方です。残すのですが、選手達と色々話をして、今までよりもいいプレーをできるようにすることです。あまり時間がないので、今の時点で今までと違うことをやらない方がいいと思います。代表チームにはもっと時間が必要です」

オシム監督

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