サウジアラビア戦後 オシム監督会見
――前回からチームよい方向に向かっているそうだが、今日の結果で確信に向かっているのか?
インド戦よりも出来がよくなかったと思っている。悪くなっているということだ。もちろん相手が違う。サウジアラビアはインドよりも強いし、ピッチの状況も全く違う。インドではミスが出ても、ピッチコンディションのせいにすることができた。今後、もっとよいチームを作るためには、今日の試合で何がよくなかったか、話し合う必要ある。
最初、立ち上がりはイライラする展開だった。普通なら失わないようなボールを相手に渡してしまった。その後に、普通というか、よい時間帯もあった。しかしその時間帯でも、もっとアイデアを発揮してよかった。例えば、これは中村憲剛への批判ではないが、彼以外の選手がもっとアイデアを出してほしかった。そして全体のコンビネーションを考えてほしかった。その次の時間帯は、日本のチームに典型的なのだが、自分のミスで自分をピンチに追い込んでしまった。ここは修正しないといけない。簡単に相手に主導権を渡してしまい、PKをプレゼントし、1点まで与えてしまった。後半、立ち上がりはまあまあだったが、時間の経過とともに問題が出た。それは何かというと、フィジカルの問題だ。これは昨日の会見でもお話したとおり、リーグの終盤戦であること(が原因だ)。ジャンプするどころか、ボールの方から逃げられてしまう。だから、相手もっと強かったら、その時間帯に失点してしまうこともある。そこは気をつけなければならない時間帯だった。
もちろんサウジが弱いといっているわけではない。だが、彼らはボール回しに熱中しているようだった。つまりサウジの選手同士のパス回しが主要な関心事であり、ゴールは二の次のようにも見えた。しかし結果として、われわれの努力もあり、サウジにはチャンスらしいチャンス与えなかった。これは評価してもよい。こういう話はしたくないのだが、そういった状況では一般的にはオール・オア・ナッシングでやってくるものだ。2トップの両方を足の速い選手を使ってカウンターを狙う。そういう戦術が一般的だ。そういうふうにはならなかったが、あとはどの点を修正するか、皆さんにではなく選手に直接伝えたいと思う。
そうそう、よい点についていうの忘れてた、一番よかったのは、次の試合のPKキッカーが誰でないか、ということ(笑)。それは大きな収穫だったと思う。
――後半、フィジカルの問題があったと言ったが、サウジが選手交代したことで左サイドにスペースを作られて混乱していたようだが、それに対して選手はうまく対応していたか?
それは大きい問題ではない。走れるかどうか、走れない選手がいるところでどうするか、ということ。よく誤解される方がいるようだが――。対戦チームが、あるサイドからプレスをかけてくる。実際には、われわれがピンチになるのは反対側のサイドなのだ。ことわざというほどではないが、危険に見えるところほど、そんなに危険ではない。
例えば日本の左サイド、アレックス(三都主)や憲剛が疲れ始める。そこで一番問題なのは、逆サイドの加地が攻められたら大変だということ。あるいは逆に加地が先に疲れたら、反対のことが言える。連鎖反応が一番怖い。まず、ある選手がミスして、それをカバーするためにほかの選手が余計に走る。そこでまたミスをしたら、第3の選手がもっと余計に走る。そこで疲労して、その選手が間違えてしまえば、第4の選手が追いつく前に失点してしまう。だから、明らかに「これはミスだ」というのは気がつくから簡単なのだが、そういうふうに見えない。相手選手との距離が不正確で、はっきり目に見えないミスというものが、最も(相手に)押し込まれる原因になる。サウジはスキルの高い選手がそろっていたから、それを利用して攻めてきた。相手の交代選手を見ても、サウジがそれを理解して、日本の弱点を突いてきているのが分かった。それは選手が疲れたから代えたのではなくて、日本を研究した結果、あの交代になったと思う。日本のパフォーマンスが落ちたから、そこを突かれそうになった。
そういう見えない、分かりにくいことについて、もっと分析的な記事を皆さんが書いてくだされば、もっとサッカーの理解は深まると思う。
――サウジの攻撃では、24番(スリマニ)がパス回しの中心になっていたが、彼をもっとマークすべきだったのではないか?
そういうふうにしようとしたが、向こうの方が上回っていた。つまり、相手チームのベストプレーヤーをマークする。それによって試合を作る、あるいは壊すというのは、はっきり説明はしやすい。例えばバルセロナと戦うとき、極端な例だが、有名なロナウジーニョとかメッシとか、そういう選手にマーカーをつけたとする。その場合、マークするこちら側が怖がっているわけだ、必要以上に。マークする役割の選手は、向こうのよさを消すというところでしかプレーしていない。例えば、こういうふうに考えられないだろうか。それまでロナウジーニョをマークしていた選手が、マークをほっぽり出してゴールに向かう。そしてパスをもらおうとする。その時、ロナウジーニョはどうするだろうか。誰が追うのか。ロナウジーニョが追うだろうか? ロナウジーニョは一番近くにいたから、走らなければならない。もしロナウジーニョが戻って守備をするところまで追い込んだら、彼はロナウジーニョではなくなる。だから、最もよい選手を何とかしようとするには、そういやり方での対策というものが考えられる。今日も24番については、そうしようと思った。彼をマークする係りの選手たちは、24番が攻撃で果たした役割よりも、もっと素晴らしい役割を果たした。つまり、日本の攻撃に役立ったということだ。
少し、話全体がナンセンスに聞こえるかもしれないが、私はまじめだ。いい選手だから、自分たちの誰かをマークさせて疲れさせようという考えには及ばないわけだ。例えば、ワールドカップ(W杯)ドイツ大会、フランス対ブラジルの試合はご覧になっただろうか。メンバー表には、カカ、ロナウド、ロナウジーニョ、アドリアーノ、ジュニーニョ。つまり攻撃という意味では、世界のベストプレーヤーが5人も6人もいた。その結果がどうだったか。バランスが崩れたわけだ。GKを除けば、フィールドプレーヤーは10人しかいない。1人いいプレーヤーがいて、その周りで5人の選手が走る。そうでないとチームは機能しない。それを理解しないで、ブラジルだからといって、怖がって最初から守備だけをしようとすると、彼らの思うつぼとなるだろう。日本の現実からはかけ離れた話かもしれないが、サッカーとはそういうものだ。何度も申し上げているように、(相手が)ブラジルだろうと怖がる必要はない。逆にどんな相手であろうと、軽く見てナメてもいけない。24番もそうだし、途中から出た10番(サフルフーブ)もそうだが、彼らも、どういうふうに抑えられたか分かっているはずだ。日本の選手たち、それぞれのチームの監督たちは気をつけないといけない。監督は選手たちに、相手をリスペクトする必要はあるが怖がってはいけない、ということをもっと教えるべきだと思う。
――今後も巻には先発のチャンスを与えるか?
巻が駄目だというのか?
――駄目というわけではないが、ほかにももっといいFWがいると思うが
具体的な名前を出してくれ
――播戸
ナシとリンゴを比べて、どちらがいい果物かということか? ほかには?
――高松
巻と高松の髪の色を比べてはどうか(笑)?
――髪の色はどちらが好きか?
色の問題ではない、高松には高松のクオリティーがある。ほかの例を挙げよう。攻撃は最大の防御である。逆に、最大の防御は攻撃の中にある。巻はその点で実践している。つまり、攻撃の先頭の選手でありながらディフェンスもする。攻撃の能力という点で問題がないわけではない。しかし巻が果たす役割は、汚れ役だ。大事な役割を果たしていることを忘れてならない。相手のゴールとハーフウエーラインの間を走り回り、時にはスライディングタックルまでする。そういうFWがほかにいるだろうか? エネルギーを使っているし、非常に消耗するわけだ。消耗する中で、ボールをもらったときに、もっと集中力があれば、もっといいパフォーマンスができるだろう。
私は巻をよく知っているので、ここで巻がいいとか駄目だとか別の評価をするつもりはない。もう少し、呼ばないでおこうか、と思ったこともある。しかし結果として、今回は呼んで正解だったと思う。お願いだから、この選手とこの選手はどっちが素晴らしいか、と比べるのは控えていただきたい。
――今は試している段階ということだが、前線での巻、我那覇、中村憲のコンビネーションはどうだったか。今日の試合で実験は成功したと思うか?
成功か失敗かは、皆さんで判断してくれ。ただし今日の試合は実験ではない。こういう真剣勝負だから、実験だったとは言いたくない。相手に対して失礼だ。実験でなく、真剣勝負だ。もっと長い時間、一緒にトレーニングや試合をすれば、もっといいコンビネーションができたと思う。率直にいうと、これは選手たちに言ったことだが、日本には外国にプレーしている選手が7、8人はいる。彼らも、今日の試合で頑張った選手と同じくらいに、頑張ってほしいと思っている。逆に日本でプレーしている選手が、欧州の選手を脅かすくらいのプレーをしてほしいものだと思う。欧州でプレーしているからといって、代表のレギュラーだと自動的に考えるのは間違いだ。そこのところを誤解すると、海外にいる選手も国内にいる選手も、悲しい誤解のまま過ちを犯すことになる。両方が競争相手なんだという意識を持ってほしい。例えばスコットランドの中村俊輔が、日本に別の中村が現れたと聞いて、ショックを受けてほしいと思う。
皆さん、今日は別にブラジルに勝ったわけではないので、あまり質問をしないでほしい(笑)。
――今日は三都主がいつもと異なるポジションでプレーしていたが、特に今日の試合で特別や役割、意図があったのか?
どんな役割だったと思うか? 教えてほしい。
――試合を見る限り、あえて内側の位置からサイドに競り出して、そこで駒野とのコンビネーションを引き出すように見えたが
その通り。それでバランスを取ろうとした。左サイドにアレックス、右サイドには対照的に中村憲剛。反対側では7番(ハイダル)と24番をアレックスと駒野が対応する。彼らも、サウジの選手の方も、中に入ってくる傾向があった。その結果、サイドにスペースができて、そこをサイドバックが上がってくる。そういう作戦を向こうは立てていた。こちらも同じやり方をして、われわれの方が成功した。つまりサウジのサイドバックよりも、加地と駒野の方が、より相手に脅威を与えた。それは相手の戦術に対するわれわれなりの回答だ。
もしブラジルに勝ったなら、会見ではなくお祭りをしたいものだ(笑)。
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