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イビチャ・オシム監督の町サラエボ
オシムと神の子
イビチャ・オシム監督

インド戦前日 オシム監督会見

――あなたのストラテジー(戦略)は何か?

 フットボールは美しいゲームだ。だからストラテジーというよりタクティクス(戦術)とすべきだろう。ストラテジーとは戦争用語であり、フットボールにはふさわしくない。もちろんわれわれには、いくつかのタクティクスがある。もちろん、インドにもあるだろう。日本にもインドにも、お互いに長所もあれば短所もある。われわれはできるだけ長所を出し、短所を出さないように心掛ける。ストラテジーというものは、ピッチコンディションやチーム状態といったものにも左右される。

――今日の(練習場の)ピッチコンディションはハッピーか?

 決してハッピーではないが、それに適応しなければならない。われわれにはほかのグラウンドを選択する余地はない。これは日本だけの問題ではなく、両者にかかわる問題だ。どんなチームがプレーするときも同様だろう。私としてはインドのサッカー協会が、ピッチコンディションについて改善してくることを望みたい。サッカーにふさわしいコンディションをわれわれは望む。もしインドの皆さんがサッカーよりもクリケットを望むのなら、われわれはクリケットの競技場でプレーするのかもしれない。もちろん私としてはクリケットではなく、サッカーをしに来たのだ。

 インドの記者の皆さんは、イングランドのフットボールをテレビなどでご覧になっただろうか。イングランドや欧州のピッチ状態について、どう思われただろうか。サッカーをするための最高のコンディション。まずはピッチコンディションについて、あなた方の選手に質問して、それからわれわれに質問してほしい。きっと彼らも同じような思いだろう。明日のゲームで重要なのは、このピッチコンディション以上に、われわれが一晩でコンディションを改善することができないことだ。

――明日のフォーメーションは?

 どういう意味か?

――4-4-2とか

 あなたはわれわれが数字を固定化すべきと考えるのか? 最初から最後まで、4-4-2とか3-5-2とか?

――コンビネーションの問題もあるだろう?

 われわれはゲームの中でフォーメーションを変化させる。3回、4回も。4-4-2だって? 3-5-2にも3-4-3にも3-6-1にも4-5-1にもなる。われわれの選手たちは、プレーしながら変化することを知っている。私が思うに、選手は自身の考えるようなフォーメーションを形作るだろう。重要なのはシステムではない、選手なのだ。われわれはシステムを固定することはない。しかしわれわれは変化する。私はあなたと違うことを考えている。ご満足いただけないようだが(会場、苦笑)。

――ガーナ戦を踏まえて修正したと思うが、明日の試合で選手に何を期待するか?

 ガーナ戦からあまり時間がなかったので、修正するには十分ではなかった。次の試合がまたガーナだったら、ある程度修正して戦えるのだが、違う相手だ。別のチームと戦うので単純ではない。つまり修正という言葉は適切ではない。変化させる、チェンジする。チームを変化させる、戦い方を変化させるということでトレーニングしてきた。(23人の)メンバーは同じだが、ゲームの進め方は違うものになるだろう。あるいは違う選手を使うかもしれない。ただしガーナ戦での試合内容はよかったので、よかった部分は変える必要はないと思う。もし、試合ごとに大きく変えなければならないとなると、何も前進しないだろう。

――日本はすでに予選を突破しているが、順位は確定していない。11月のサウジアラビア戦を前に、できるだけ多くの点を取るつもりなのか?

 インド側が何点失点するのか、先に聞いたのだろうか? つまり学校の試験と違って、こちらが何点取れるのか目標を立てることはできない。サッカーの試合は相手がいるのであって、相手の出方というものが非常に重要になる。ここで日本の監督が「何点取るつもりだ」などといえば、逆にインドの選手たちがやる気を起こすことになるだろう。簡単な試合にはならないと思う。何が起こっても不思議でないのが現代サッカーだ。あらゆる状況に応じて、準備をする。それだけだ。

――相手が守備を固めてきた場合、何がポイントとなるか?

 インドは監督が変わったので、2月の日本でのインド戦とは異なると思う。守備的に来るのか攻撃的に来るのか分からない。4-4-2で来ることは予想するが、そこからどう変わってくるのかが分からない。そのままのフォーメーションで来るのか、そうでないのか、そこが分からないので、こちらの戦い方をあらかじめ決めることはできない。選手間の決め事はあるが、柔軟に対応することが基本だ。相手の出方によって対応する。受け身という意味ではないが、変化してきた場合は(こちらも)変化する。だから日本側から「こう行く」とは決めていない。相手の裏をかくことは考えているが。気をつけなければならないのは、インドも成長しており、しかも今回はホームであること。だから楽勝と考えるべきではないし、それは失礼だろう。特に国際試合では、いかなる相手でもリスペクト(尊敬)すべきであり、それが負けない秘けつである。

――ガーナ戦の反省を含めて、オフ・ザ・ボールの動きを重視した練習をしていたのか?

 ガーナ戦の教訓は関係ない。走らなければならないときは走る。いい試合をするためには、走らなければならない。だから走る練習をしている。ガーナ戦でも走る量はあったのだが、ただしそれが効果的でなかったというのが、あえていえば教訓だったのかもしれない。つまりガーナを圧倒することができなかった、ということ。これは私の感想であり、あなたは別の感想を抱いたのかもしれないが。

 これは日本だけではなく世界中のあらゆる国で、いったん試合に負けてしまうとどういう内容であれ、結果だけを取り上げて「負けたじゃないか、ダメだったじゃないか」とすべてを否定してしまう傾向がある。問題は、内容をどう見るか。よかった部分、足りなかった部分をどう見るか、ということが大事なのだと思う。この間の試合に関していえば、ワールドカップのベスト16で、世界中を驚かせたガーナに対して、60分まではかなりいゲームをしていた。しかしそこで足りない部分があって、残念ながら試合が終了したときには負けていた、そういうことだったと思っている。だから一晩で何かが劇的に完全になるとは思わないが、走る能力というものは走らなければ劣ってしまうので、それは常に心掛けている。

――アウエーでの試合だが、試合前日に会場で練習できなかったのは不利ではないか?

 トレーニングはしていないが、午前中に選手たちは会場を視察してピッチを確認している。もうひとつ、試合前には20分ほどのウォーミングアップを行う時間がある。20分でピッチ状態の良しあしに気がつかないような選手は、たぶん使わないと思う。
 実は今日は試合会場で練習するはずだったのだが整備中で、もし昨日の夜から今朝にかけて雨が降った場合、練習は別の時間、別の会場――つまりここでやらなければならないという条件があった。それはインドも同じ条件だったのだが、天候によって練習場所と時間が変わることは避けたかったので、早い段階でこちらでやるという判断をした。それに、トレーニングしないことでピッチ状態がよくなるのなら、それに越したことはないだろう。

――監督はいつも相手によって対応する、あるいはどんな状況や変化にも対応することの重要性を説いているが、それは監督が求める「ポリバレントな選手」の条件でもあるのか?

「ポリバレント」という言葉には、多くの意味が含まれている。必要に応じて、多くのポジションができるということ。それだけではないのだが、全員がポリバレントな選手である必要がある、と言ったわけではない。中にはスペシャリストもいる。例えばGK。もちろんポリバレントなGKもいるが、その場合はユニホームの色を変えなければならない(笑)。スペシャリストの例としては、強力なストッパー。どんなFWを相手にしても、絶対にゴールを入れさせないというスペシャリストが1人いれば……。あるいは毎試合必ずゴールを決めるFW……。しかし、そういう選手でもポリバレントであればもっといい。例えば巻がDFの位置で相手のボールをはね返すとか、あるいはこの間のガーナ戦のときのように佐藤寿人がゴール前で(シュートを)クリアしたとか、そういうことはあった。阿部が相手ゴール前まで行ってシュートする、駒野がシュートする、アレックス(三都主)がチャンスを作る、そういうものが組み合わさって、よいチームができる。だから(ポリバレントの)ひとつの意味は、ピッチ上のどんな場所でも、その場に応じたよいプレーができることである。ただしそれは「ポリバレント」というより、その選手の「クオリティーの高さ」ということになるのかもしれない。

(一瞬、会場が停電。会場がどよめく)

 さっきの(インドの)記者が、怒って電気を消したのかもしれない(笑)。
 皆さんも笑っていらしたが、皆さんだって最初は4-4-2だとか3-5-2だとか、システムにこだわっていたではないか。いつもシステムを大事に考えている記者さんがいらっしゃる。私の祖国では残念ながらシステムというものはない。政治システムが崩壊しているから(笑)。でも、ファシストのシステムがあるよりかはいいだろう。それもシステムだから。システムがあった方がいい場合、ない方がいい場合、両方あるのだ。

オシム監督

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