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イビチャ・オシム監督の町サラエボ
オシムと神の子
イビチャ・オシム監督

インド戦後 オシム監督会見

――後半についてどう評価するか? ロングパスが多かったが

 ピッチコンディションの問題で、ショートパスのコンビネーションがうまくいかなかった。われわれは多くのパスをミスしていた。長いパスならば、ミスは一度しかない。

――インドは0-3で負けてしまったが

 インドにはよい意図があり、選手たちもまた、多くが高いレベルにある。もちろん短所もある。すべての選手がよかったとは言えないが、多くの選手はよくやったと思う。特に9番(マンジット)とキャプテンの15番(バイチュン)、2人のFWがよかった。俊敏でヘディングが強かった。彼らには、いいパスが供給されていた。

――日本のパフォーマンスについては?

 多くの選手が疲れていた。彼らはリーグでも週に数試合プレーしており、特にフィジカル面では非常に難しい状態だった。
 インドは前半の終わりごろにいいチャンスがあった。あれが決まっていたら、すべては変わっていただろう。

 それから昨日の会見で話したことだが、私はシステムを重視する監督ではない。今日の試合でご覧になっただろうが、われわれは何度もシステムをチェンジした。ポジションだけでなく、選手もだ。4-4-2、4-3-3、3-4-3……これは当たり前のことだ。ただ、昨日の会見で不機嫌な態度を取ったことは、謝りたい。

――水本の負傷交代というアクシデントはあったが、チームに流動的な動きが見られたことで満足しているのか?

 率直にいって、この会見でそのようなプレーができたと言えればよかったのだが。もしこの試合に満足なら、監督である資格はないと思う。もしここで私が「満足した」と言ったのなら、あとで自分はおかしいぞ、と気がつくことだろう。常に、次の試合はもっとよくする、そういう気持ちを持っていないと監督は務まらない。そうでないと、この仕事を辞めなければならない。今後、このチームがよくなっていく見込みがないということであれば、選手を入れ替える必要が出てくる。
 改善点で一番重要なのは、落ち着いて冷静でいられること。それから効果的なプレーをすること。スキルをもっと正確にすること。これらをひとまとめにしてひとつの単語にするなら「エレガント」ということになる。私の考えだが。選手の中には満足している者もいるかもしれないが、私はそうではない。私がここで満足したと言えば、そこで進歩が終わってしまう。だから今日のような試合は満足できない。シンプルなことだ。

――後半について、フィジカル以外にどんな問題があったのか?

 まずフィジカル的な問題があった。最初はアグレッシブであったのが、徐々に勢いが失われていった。最終的には3点差になったが、最初は「もっとできる」と意欲的だった選手たちが、途中から気力が衰えてしまった。それは経験が原因だったのかもしれない。つまり疲れてしまった。疲れないためには、ボールを持ったときにもっと落ち着いてプレーしていれば疲れないのだが、それができなかった。急ぎすぎたり、焦ったり、簡単なことをやれば楽なのに、難しいことを選択して失敗する。それが一番の問題だったのかもしれない。みんながデコやロナウジーニョのようなパスを出そうとする。それができる選手もいるのだが、できない選手の方が多い。だからもっと単純なプレーをすべきだ。自分がビッグプレーヤーだということを意識させたい選手もいた。もちろんそういう気持ちはよく分かる。代表(キャップ)が初めて、2回目、そういう選手が多かった。だから気持ちはよく分かる。皆さんはそういう選手から話を聞いてやってほしい。私は、それではよくないと思っているが。私はそういう選手に対して別のアドバイスを与えようと思っている。

――どういうアドバイスか?

 それは皆さんでなく選手に伝える。皆さんのためではなく、選手のためのアドバイスだ。別に秘密ではないが、選手に言う前に皆さんに言うべきではない。すでに選手の一部にはハーフタイムに話した。具体名は挙げないが、後半もっと落ち着いてやれば、もっと確実にゲームを進めることができた。しかし皆さんはもうお気づきになったと思うが、彼ら全員がJリーグの所属クラブでやっているゲームよりは、今日のゲームで非常に多く走っていたと思う。もちろん代表戦ということで、特別な意味があることは選手も理解していただろう。しかし今日の試合は終わった。つまり過去のことになった。今日の試合は決して無駄にはならなかったが、今後はガーナのような強い相手ともっと腕試しができるようになればいいと思う。そこで初めて日本の実力が試されるわけだ。もちろんインドと試合をしたくなかったわけではない。そんな失礼はことを申し上げるつもりはない。しかし日本は今日の試合に満足してはいけない。もっと強い相手と(試合を)やって、勝たなければならないと私は考えている。

――昨日話されていたポリバレントという意味では、前半にストッパーがオーバーラップしたり、三都主が右からアシストしたり、できていたと考えるか?

 DFがオーバーラップしてセンタリングすることは、ポリバレントの範囲には入らない。それはいいDFであれば、誰でもやることだ。ポリバレントという意味で、今日一番のプレーヤーは鈴木だった。つまり中盤の底でやって、アクシデントに対応して1枚下がってリベロになった。それから山岸が、最初は左サイドでプレーして、その後は右サイドになった。両サイドができるというのはポリバレントである。それができる選手がそろっていると、メンバーを交代せずにチームの中でポジションを変えて、全く違う戦い方ができる。そういう可能性を実現させることがポリバレントな選手だ。

 チーム全員がポリバレントである必要はない。今日は負傷者が出たので交代カードを1枚切ったが、あれがなければ別のコンビネーションの可能性があった。田中隼磨を使おうと思っていた。そして駒野をストッパーに入れる。そういうアイデアを持っていた。それも選手のポリバレントの特性を生かすテストだった。しかしストッパーの1人が負傷したことで、緊急措置として長谷部を入れて、鈴木をディフェンスラインに下げた。

――遠藤が使えなくなったことでゲームプランは変わったのか?

 例えば紙の上でメンバー表を書いて、遠藤(の不在)は中村憲剛で代用が利くというふうに一瞬見えるだろう。エレガントなプレーヤーだから。それですべてがうまくいくと試合前には想像ができた。つまり遠藤と中村憲剛、両方ともボール扱いがうまくてアイデアのある選手だ。遠くまで見渡せて、パスが正確に出せる。一方では、そういう選手を2人並べて同時に使うことのリスクというものがある。つまり、そういう選手の多くは攻撃能力には優れているが、守備能力が足りない場合が多い。そこで相手が攻める時間帯が長くなると、守備でエネルギーを使い果たしてしまい、本来の攻撃能力を発揮できなくなることがある。そういう選手も中にはいるわけだ。
 皆さんの中には欧州組を呼んだらどうかと考えている方もいらっしゃるだろうが、遠藤、憲剛、それから中村俊輔、そういった攻撃的なMFを全部並べて使うわけにはいかない、ということも今の説明でご理解いただけると思う。攻撃的な選手ばかりをそろえれば格好いいかもしれない。だが、そのようなチームでは勝てないのだ。

――鈴木を後ろに下げたのは成功だったと思うか? 例えばDFの選手を入れることは考えなかったのか?

 それではサッカーとして面白くないだろう。宝くじでも買った方が、当たる確率は高いかもしれない。つまり中盤の組み立て方、ゲームの運び方というものを崩したくなかった。だから鈴木を残そうと考えたのだ。前半の鈴木の調子がどうだったかについては、皆さんいろいろな見方をされるだろうが、彼は違った役割を後半に見事に果たした。そういうことだ。

オシム監督

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