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イビチャ・オシム監督の町サラエボ
オシムと神の子
イビチャ・オシム監督

ガーナ戦後 オシム監督会見

(試合の感想を求められ)皆さんがご覧になったとおり。逆にこちらが皆さんに聞きたい。

――チャンスはワンタッチプレーからが多かった。それに対する評価は?

 今日の試合で、あなた方にとっていい記事が書けるかどうか聞きたい。もしそうでないなら、私は各選手にボールを1つ1つ買い与えて、ボール扱いを練習させる。しかし、ルール上はボールは1つしか使えないので、ワンタッチプレーが必要になる。
 これからが真剣な答えだが、大事なのはチャレンジすること。今日のガーナのような強豪相手に、こういう内容の試合をすることこそが簡単ではなかった。ある程度チャレンジは成功したが、しかしフィニッシュまでの成功につなげることはなかった。フィニッシュ、これが一番の問題だ。

――後方からのビルドアップが課題だったが、ガーナ戦はいいレッスンになった。これを打開するには何が必要か?

 今日の試合は教訓とも言えるが、そうでないとも言える。チャレンジは途中までだが、何度か成功した。こういう強豪とは初めての対戦。こういう試合でもできるかどうか。ディフェンスラインは4つの異なるチームから選手を選んだ。だから彼らがミスしたかどうかが問題ではなく、チャレンジしたかどうかを評価したい。ただ、いくつか気になった点があったことは、彼らも分かっていると思う。例えば私は選手たちに、家を作るときは土台が大切だと言ったばかりだ。

■大事なのは、プレッシャーの中でアイデアを実現できるかどうか

――フィニッシュが問題なら今後、欧州組の選手を入れるべきではないか。監督はそう望んでいるか。そうだとしたら協会に要望しているか?

 どのような選手を想定しているのか。

――例えば中村俊輔選手がいれば、FKから得点できる可能性は高まると思うが

 試合前に10個のFKが約束されているわけではない。FKを得るまでのプロセスが大事なのだ。昨日の練習で、遠藤とアレックス(三都主)がFKの練習をしていたときに、遠藤に注意していたのを気がつかなかっただろうか。「おい、練習でそんなにシュートを決めるなよ」と。アレックスにも同じ注意をした。実際の試合は練習とははるかに異なる。プレッシャーもある、観客も騒ぐ、ガーナの壁も日本の選手よりも高い。そうした中で、どういうFKをするか。だからFKに関しては、あまり心配することではないのではないか。

 それよりも心配事がある。夜眠れないほどの心配だ。というのも彼ら(欧州組)の出る試合が夜中に放送されるだからだ(笑)。今はまだ、日本のいろんな選手をテストしているところだ。欧州の選手は、毎週ガーナのような選手と試合している。だから、そういうチャンスのないJリーグの選手たちを集めて、どこまで力を出せるかという機会を与えるべきだ。それで、ある程度の自分の力も分かるだろう。(FIFA=国際サッカー連盟)ランキングにふさわしい力があるかどうかは分からないが、もっとできる、伸びる可能性は確認できた。ガーナというチーム、あるいは各選手と比べて、日本はどういうところなら優れているのか、伸びるのか、確認することができた。戦術面はまったく問題ない。個人スキルの点で少し問題がある。オプションのクオリティーの高さ、アイデアの豊富さ、そのアイデアを試合のプレッシャーの中で出せるか。日本の選手はプレッシャーのないところなら、アイデアもあって、それを実現できる。ところが大事なのは、プレッシャーの中でそれを実現できるかどうかということ。そこに勝敗を分ける大きな違いがある。日本の選手が、相手にパスミスをする。それを受けて、ガーナがチャンスを作る。そういう場面が何度かあった。しかし良い面もあった。小さいが前進の可能性を見ることができた。

■試合中に走って死ぬことはない

――ガーナの浅い4人のラインを破るための指示は出したか?

 いちいち細かい指示はしなかった。なぜなら日本語ができないからだ(笑)。だから細かいことは言っていない。彼らから顧問料をもらえるなら話は別だが。試合開始直後、相手の4バックの第2DFがオフサイドトラップをかけてくるのが分かった。だからもう少し、それに対して慎重であるべきだったかもしれない。実質的に、われわれは3トップで試合に臨んだ。少し勇気を出し過ぎたのかもしれない。大変強い相手に、日本は立ち上がりから非常に積極的にオフェンシブに試合を始めたと言える。そこで結果が出たかどうかというのは、それはまた別の問題だが。しかし今後もこういうやり方で積極的にやりたい。昨日の会見で皆さんに「もしかしたら4トップかも」と言ったのを覚えていらっしゃるだろう。

 いずれにせよ、チャレンジしなければ力を試せない。遠藤は今日、走るチャレンジをしていた。私はそれを見て、もっとやれと言えば、もっと走れたと思う。中村憲剛もそうだ。常々言っているように、試合中に走って死ぬことはない。もっといいプレーをするためには、もっと走らなければならない。

――ワイドにピッチを使うことにチャレンジしたと思う。オートマティズムをどう評価するか

 結婚して40年になるのだが、まだ家内との間にオートマティズムがない(笑)。それなのに、選手との間にわずか数回だけ練習をしているだけで、どうしてオートマティズムができると思うのか。3日間で数回の練習だけで、オートマティズムが生まれるだろうか。しかし、オートマティズムなしでいい試合ができるわけでもない。そのためには、選手たちがもっと頻繁に集まって、同じトレーニングをしなければならないだろう。今日のように、5人の選手がみんなクラブが違うという場合、すぐにオートマティズムが生まれるのなら、今ごろはJリーグでプレーしていないだろう。

――頻繁に集まる予定はあるのか?

 私が知っているスケジュールには書き込んでいない。だから可能性があるとは言えない。各クラブの日程、Jリーグの日程、さまざまな日程ばかりだ。とりあえずJ1が大詰めで、1つ1つの試合が白熱がしてきた。そういう中で、優勝争いをしている浦和やガンバ大阪から選手を預かっているので、彼ら自身が持っている目標というものは尊重しなければならない。ライバルチーム同士から同じ代表に集まって試合しているのだ。日本はガーナのように、選手がみな海外から集まっているチームではないのだ。

■攻撃も守備も両方できなければ、その選手の未来は短い

――3トップで攻撃的だと言ったが、私には相手のDFに対処するマンツーマンのような守備的に見えた。ホームでもっと攻撃的にやろうという考えはなかったのか?

 どういう印象を持たれたかは自由だが、先発メンバーを見れば守備的ではなかったことがお分かりいただけると思う。もし守備的にいくというのなら、佐藤勇人、田中隼磨という選手を起用しただろうし、1トップにすることもできた。サイドについて言えば、現代サッカーでは攻撃も守備も両方できなければならない。

 前線の選手が、相手のサイドバックが上がっていくのにケアしなくても済むというのであれば、ご自由にお考えになっていただいて結構だ。ところが先発のシステムはそうではなかったわけだ。例えば山岸智。彼がスタメンで出たことでたくさんのチャンスが生まれた。もちろん彼はディフェンスもした。佐藤寿人、何回か惜しいチャンスがあった。それから巻にも良いパスを出していたし、巻自身もそれに何度もトライしていた。それをご覧になった上で、それでも「守備的だった」と言うのであれば、それはあなたのお考えなので仕方がない。DFであるアレックスや駒野が何度シュートして、何度チャンスを作ったか数えてみただろうか。もし守備的でいいのなら、彼らはあそこまで出てラストパスを送らなくてもよかったのだ。守備専門であればいいのだから。ちょっと言葉がきつかったかもしれないが、サッカーというものは日々変わっていくのだ。

 これは選手によく伝わるように書いていただきたいのだが、攻撃も守備も両方できる選手でなければ、その選手の未来は短い。それが現代のサッカーのトレンドだ。だから山岸智であろうが、駒野であろうが、佐藤寿人であろうが、誰が、どの名前が重要なのではない。サッカーでは、そこでチャンスがあるか、スペースがあるか、ピンチなのか、相手がどのディスタンス(距離)で迫っているのか、ということに素早く反応して攻撃したり守備をしたり、そういう素早い切り替えができないといけない。そういう点を見ていただきたかったのだ。

 3トップで行く、その3トップが全く守備をしなくていいのであれば攻撃的である、とは言えない。もちろんトップだから、攻撃をするのは当然なのだが。残念ながら、守備も攻撃も両方できる、そのために走り回る準備ができていない選手がいる。ひとつの例だが、ブラジルには5人のオフェンシブな選手がいる。この間のワールドカップのフランス戦の話だ。ブラジルの中でディフェンスをしていたのはルシオで、彼は孤軍奮闘していた。というのも、カフーもロベルト・カルロスも、年齢的なことはあったかもしれないが、攻めたら攻めっぱなしだった。そしてロナウド、ロナウジーニョ、ジュニーニョ、カカ、アドリアーノ、そういった攻撃的な選手が全員集まったとして、今日のエシアンのようなプレーができただろうか。どう思うか?

 ただし、私は今日の試合に満足はしているわけではない。負けたのだから。しかし前進するヒントがあったかどうか、それをいま探しているところだ。もしかしたら欧州の選手を呼ばない期間が長すぎるのかもしれないが、欧州ははるか遠い場所にあるのだ。どうしようもなくなったときに、最後のチャンスをもたらす人々として助けに来てくれる、そのための準備をしようと思っている。もし欧州の選手を呼んで、最初の試合に負けてしまったら、彼らは救世主としての役割を果たせないのだ。

オシム監督

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