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イビチャ・オシム監督の町サラエボ
オシムと神の子
イビチャ・オシム監督

サウジアラビア戦後 オシム監督会見 AFCアジアカップ2007予選 第3戦

――今日は中盤でボールを取られることが多かったが、それは相手が良かったからか? それともこちらが未熟だったからか?

 チャンスの数がどちらに多かったか、考えてほしい。得点ではなく、チャンスの数は、日本とサウジ、どちらに多かったと思う?

――日本の方が多かったと思う

 試合の内容を表す意味で(その数字は)雄弁だ。残念ながら相手には数少ないチャンスで得点を奪われてしまったが、全体的な内容としては悪くはなかった。中盤のボールについては、試合なのでいろいろなことがある。特にサウジは中盤に人数をかけてきて、それぞれの選手もうまかった。こちら側としては左サイドに問題があった。しかし問題はそこにあったのではないと思う。最大の問題は前半15分くらいの間に、奪ったボールをすべてプレゼントしてしまったことだ。精神的なプレッシャーとか、疲れとか、そういう問題がないところで、持っているボールを簡単に相手に渡してしまった。だから私は怒った。相手がタックルを仕掛けてきたわけでもないのに、10回ボールを持ったら10回とも渡してしまうとは、どういうことか。それは今日の試合に限った話ではなく、日本のサッカーが抱えている問題だと思う。その時間帯の後は、かなり落ち着いてボールを扱えるようになった。それについては、良い部分、悪い部分、両方をとらえておく必要がある。準備に時間はかけられなかったし、サッカーは一種のオートマティズムが必要になるスポーツだ。そういったコンビネーションがないチームは、いい試合ができない。だから試合の中の部分部分では、非常にしっかりできていたとは思う。

 特にオフェンスの選手の中に問題が集中していたかもしれない。それは一朝一夕で改善できる問題ではない。ある意味で選手たちが、これから学ばなければならない問題だと思う。それはネガティブなオートマティズム、必要のない癖がついていることだ。サイドでボールを持ったらすぐにセンタリングしてしまう。中に選手がいないとか、逆サイドにスペースがあるというのに、密集地帯にボールをフィードするとか、考えていないセンタリングをする。そういった問題を除いては、走ること、アグレッシブに戦うこと、そういった点は良かったと思う。だからこそ、日本の数多くのチャンスにつながったのだと思う。

 結果として負けたのだから、ジャーナリストの皆さんは怒って、もっときつい質問をしていいと思う。サポーターの皆さんも(厳しくて)当然だと思う。しかしわれわれは、現実からスタートしなければならない。もし相手がブラジルだったら、ひとつの試合に負けたということで、なぜ負けたかについて延々と話してもいいだろう。しかし相手はブラジルではない。そして目指している方向、運動能力を高めようということ、サウジアラビアよりも走るということ、そういう点では勝っていたと思う。だから内容に反して結果が出なかったということ。選手たちには個々人、それぞれ言いたいことはたくさんある。しかし(彼らが)冷静に考えられるまで、待とうと思う。(Jの)試合の翌日に出発して、十分なトレーニングもできないまま、時差ぼけ、高温多湿、そういうコンディションで、しかも今日の試合には負けてしまった。選手たちにとっては、大変気の毒なことだと思う。

――以前、敗北から得るものがあると言っていたが、今回の敗戦は若い選手に対してどのような意味を持つと思うか?

 まず、負ける場合もあるということを学ばなければならない。負けること、そのものがためになるのではない。内容はこちらが良かった、しかし負けた。そこから何が学べるかということだ。そこを考える姿勢が大事だ。サウジにとっては、とにかく1-0で勝ったことが重要なので、試合の内容については明後日には忘れてもかまわない、ということになるだろう。

――最初の15分間、相手にパスをプレゼントしてしまったと言ったが、それはパスの出し手と受け手、どちらに問題があったのか?

 たぶん白と青の区別がつかなかったのだろう。よくあることだ。特にこれまで対戦したことのない相手、しかもブラジルスタイルの相手と対戦するときには、そういうことが起こる。ブラジルスタイルというのは、選手が動きながら、そこにボールが来ることを予測する、そういうスタイルだ。先を読むことに慣れていない選手は、相手にパスすることになってしまう。また相手もパスのコースを予想しながらカットするように動いてくるから、注意深くプレーしないといつもカットされることになる。しかし15分以降、ずいぶん内容は改善されたと思う。改善できそうな小さな問題だろうが、もっとアグレッシブにいけばミスは少なくなるだろう。もちろんスキルの向上も必要だろうが、それは一朝一夕には難しい話だ。

――巻に何かトラブルが起きたのか?

 もっと多くの問題を抱えた選手がいた。巻のプレーに問題があったわけではない。彼は大変よく動いて戦った。それは評価していいと思う。ほかの選手の足りなかった部分を補ってくれた。そういう中でゴール前でチャンスをもらっても、集中力が欠けることはあり得る話だ。彼はゴール前で待っているようなタイプのセンターFWではない。ものすごくエネルギーが必要なのだ。特に今日の試合では、相手のセンターバックが2人とも大きかったので大変だったと思う。だから巻に問題があったというよりは、中盤全体に問題があったというべきだろう。前線で、巻と田中達也が動き回ったとしても、中盤の遠藤やアレックス(三都主)や阿部や鈴木や駒野、そういった選手が前線にからんでこなければ、せっかく動いても、ただの無駄走りになってしまう。そこに問題があったのだと思う。チャンスはあったのに残念だ。もう少し落ち着いてプレーしていれば、1点、2点、3点は取れたように思う。

 最初の話に戻るが、負けることも悪くない、ということはある。主導権を得て、相手よりも多く走ってチャンスを得て、それで勝ってしまっていたら、そこから学ぶものはあっただろうか。今日の敗戦には、今後のための研究材料がたくさんある。

――今日の敗戦を受けて、次のイエメン戦でメンバーを変えることは? またターンオーバーのようなことは考えているか

 24人の選手を連れてきたのは、そういう意図があったからだ。疲労や不慮の負傷もあり得るし、巻も問題を抱えているそうだから(笑)。ひょっとしたらほかの選手も「実は問題を抱えている」と申し出るかもしれない。
――中盤の連動の問題を指摘されていたが、押し上げが全体に不足していたのは、アウエーの要素もあったのか?

 一口では言えない、さまざまな要素があったと思う。中盤とは、非常に複雑なフィールドだから。ひとつには対戦相手がどういうチームか、そして自分たちがどういうプレーをしたか。それから自分たちのプレーの中で、どれだけリスクを冒したか。いろいろな角度で考える必要がある。例えばサイドについて見ても、片方は機能したけれど、もう片方は機能しなかった。右か左か、具体的には言わないが、機能しなかったサイドの選手は、経験のある選手だったので、非常に残念な誤算だった。

 理想のチームが出来上がったわけではないので、不完全なままで、しかもリスクを冒していくことが、時には必要となる。あらゆるものを望んでも、それがすべて手に入るわけではない。はっきりしているのは、優れたストッパータイプの選手が不足しているということだ。背の高い、しっかりしたボールさばきができるストッパー。すぐにプレーできなくても、控えでいつでも準備ができている、そういうストッパーはいるだろうか。皆さんの方がたくさん試合を見ているだろうから、聞いてみたいものだ。

 ストッパーというのは、時にリスクを冒すものだ。MFの鈴木や阿部を含めて、坪井、闘莉王、そういった選手が時にはミスを犯すわけだが、逆に攻撃にも参加してチャンスを作る。その際に大事なのは、誰がいないのかな? と味方のことを考えるのではなく、対戦相手のことを考える。今日のサウジには優れた選手がたくさんいた。その点では、向こうの方が優れていたのかもしれない。だから、選手たちに「負けたのは君たちのせいだ、走らなかったからだ」と言うつもりはない。それは不公平、フェアではない。サッカーというものは、学ぶことが多い。選手を代えて点が入るなら、私は代える。メンバー交代をしたら、次の試合に勝てるというのなら、そうするだろう。だが、誰をどう代えるべきか、それは分析しないと分からない。選手交代の時に(交代の選手が)タッチラインに立っている。誰が交代するのかなと見ていて、そこで集中力が切れる選手もいる。後から投入した選手が、疲れてベンチに引っ込んだ選手よりもひどいプレーをすることもある。

 もうひとつ大事なことに、第4の審判が選手交代の時間をかけすぎたという問題もある。残念ながら今日の試合では、選手交代を待っている間に失点してしまった。Jリーグでも5試合ほど、そういうシーンを見た記憶がある。特にジェフの負けた試合で。こういうことは、連鎖反応するものだろうか。だからといって、負けたことを正当化するつもりはない。ディテールを分析するということで、お話ししているだけだ。

 残り数分というところで、追いつくためにプレーを急いで、中盤で日本がキープしている。そして4人がディフェンスラインでボールを回している。闘莉王は相手ゴール前でヘディングで競る準備をしている。闘莉王の頭にボールを蹴れば、点が入るかもしれないという状況。そして審判が終了のホイッスルを吹くのを待っていたかのように、ディフェンスラインで4回も5回もパス回ししている。つまりは自己破壊をしてしまっている。しかし彼らは成人した、大人なのだ。

 また最初の話に戻るが、今日は負けて本当によかったのかもしれない。ただし、負けて痛みがないわけではない。私も胸が痛むが、選手の方がもっと悔しいだろう。

(プレスオフィサーが「そろそろバスも出てしまうので。選手も待っているので」)

 選手と一緒のバスには乗りたくない。歩いて帰ろうかな。

オシム監督

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